第8期を迎えた介護保険の保険料が全国平均で6014円になった。前期から145円、2.5%の上昇だ。3年前の第7期の時の伸び率6.4%より下回った。保険料を積み立てた「介護給付費準備基金」の取り崩しなどで、全1571保険者のうち569ヵ所(36%)が据え置き、239ヵ所(15%)は引き下げた。引き上げたのは49%の763ヵ所にとどまった。

 

 

6000円超えは、制度発足時の00年度の平均保険料2911円の約2倍となった。都道府県別でみると大阪府と沖縄県が共に平均を812円も上回って6826円となり最も多い。
今後、団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者になると、利用サービスの増大につながり、厚労省は40年度には月8200円を超えるとみている。制度発足時には「夫婦で月1万円、即ち一人5000円が支払いの限界では」と厚労省内でささやかれていたが、今では9割の自治体広域連合で5000円を超えている。

 

 

増額を迫られたのは、介護報酬が0.7%アップしたこともある。それでも他産業に比べ相変わらずの低賃金である。低賃金が人手不足を招き、訪問介護事業所のスタッフの平均年齢は54歳にも達した。制度維持のためには介護スタッフの収入増は喫緊の課題だろう。
この保険料を厚労省が発表した当日に最低賃金の論議が成された。政府の経済財政諮問会議で民間議員の間から「早期に全国加重平均で1000円にすべきだ」と提言された。コロナ禍前まで年3%程度上げてきたことを踏まえ、引き上げ路線を続けよという考えだ。

 

 

昨年は、最低賃金の目安を決める中央最低賃金審議会がコロナ禍を配慮して、事実上の据え置きとしたため、全国平均は902円にとどまった。介護保険従事者の給与は、介護保険制度の中で支払われるが、他産業との大きな格差を解消するには、最低賃金の引き上げ起点となる。
最低賃金が上がれば、その財源として保険料の上昇につながる。これを「保険料が6000円の大台からさらに増えていく。一般高齢者の負担は増すばかり。不安だ」という受け止め方では事態は好転しない。

 

 

保険料の上昇を前向きにとらえないと、厚労省が主導する介護サービスの縮減への道を広げてしまう。「軽度者は介護保険サービスから切り離して総費用の膨張を防がねば」とする同省の思惑に乗りかねない。

 

 

今後の費用増に対して対応策がいくつかある。よく挙げられるのが国税の投入だ。現在は国や自治体からの税は総費用の半分どまり。国税の比率を高めるのは楽な手立てだが、「保険」から遠ざかってしまう。保険者は市町村自治体なのに、国の関与が強まり、「地方主権」の理念が消えてしまいかねない。

 

 

「国税の投与でサービスの縮減をとどめる」と唱える識者は多いが、財源として消費税のアップも受け入れねばならない。その覚悟があるのだろうか。
保険者の関わりを強める方法として、保険料の累進性を高めて財源を確保することが考えられる。保険料は所得段階別に徴収される。都心部で多数派となる団塊世代は企業年金付きの厚生年金族が多い。国民年金に頼っていた高齢者に比べ高収入なのは間違いない。

 

 

所得段階を20段階まで設定している自治体もある。基準額の4倍以上としているが、さらにもう一段の引き上げも可能だろう。サービス利用時の2割負担が現実味を帯びてくる中、「応能負担」の比重を高める策の方が賛意を得やすいと思われる。
抜本的な対応策は、保険料を払う年齢層を20歳まで下げることだろう。制度発足時には、障害者制度の一体化と合わせて議論された。再考が急がれる。

 

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

 

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