旧態依然の〝ローカルルール〞 在宅患者置き去りの責任は?

 

世界の主要国に後れを取りつつも、日本でも新型コロナワクチンの接種は着実に進んでいる。私も訪問診療の合間に、施設や地域にかかりつけ医を持たない「ワクチン難民」の方々も含め、1日平均80件ほどはコンスタントにワクチン接種を行っている。

 

 

事前説明とセッティングさえきちんとやれば医師+看護師+事務スタッフの3人一組で60人/1時間は対応できる。看護師(ワクチンの打ち手)を1人増やせば、この2倍を受け入れられる。ワクチン接種は流れができればスムースだ。日々テレビで騒ぐほど特別なものではない。

 

 

接種人数が増えるにつれ、アナフィラキシーはそう多くないことも明らかになってきた。5月下旬の時点で611万接種中943件、0.015%だ。文字通り発生率は「万が一」だが、発生しても医療対応可能で死者はいない。新型コロナの感染リスク×感染した際の重症化・死亡のリスクを考えると、ワクチンを忌避する理由は見つからない。

 

 

厚生労働省は6月4日、新型コロナワクチン接種の手引きを改定し、在宅療養患者等へのワクチン接種について、家族や介護者による被接種者の見守りができる体制があれば、必ずしも医師がその場で15分間の経過観察をする必要はない。

さらに遠隔で予診ができるのであればワクチン接種時に医師が同席する必要はない、としている。ワクチンの安全性が確認されたことに加え、ワクチン接種後の15分間の経過観察の義務が、訪問診療の運用に及ぼす影響を考慮してくれたものと理解している。

 

 

より強力な変異株が次から次へと出現している今、ワクチン接種はまさに総力戦の時。1人でも多くの人に1日も早く。それが、命を守る、医療やケアを守る上でも、経済を守る上でも非常に重要なことだと思う。

 

 

5月中旬までワクチンの供給は非常に限られていた。しかし下旬以降、ワクチンは潤沢に届いている。ワクチン接種の律速段階はその接種体制にある。そしてそれは自治体ごとに異なる。「ローカルルール」が現場の足を引っ張るのは、医療介護業界の日常茶飯事だが、ワクチン接種も例外ではない。

 

 

私たち医療法人社団悠翔会は、首都圏+沖縄の18自治体に診療拠点を展開しているが、それぞれの自治体で体制が異なり、中には「在宅患者にワクチンが接種できない」自治体もある。

その要因は次の4つの制限だ
•自治体が開設する接種センターでの対応のみで、かかりつけ医が接種できない。
•かかりつけ医が接種できるが、外来のみで、在宅では接種できない。
•かかりつけ医が接種できるが、住民票が区域外だと接種できない。
•かかりつけ医が接種できるが、非医師会員にはワクチンが提供されない。

 

 

在宅患者がワクチン接種できないことの不利益はいまさら述べるまでもない。
感染すれば重症化しやすく、死亡のリスクも高い集団に対し、優先接種の恩恵が届かない仕組みが許容されるのはなぜなのか。自ら接種センターに足を運ぶことができない者は、感染からの保護対象外ということなのか。
行政区域にこだわる理由はどこにあるのか。医療機関は、介護サービスと異なり、行政区域を超えて診療サービスを提供している。
区域外の医療機関を利用している場合、外来患者であれば区域内の接種センターを予約・受診すればいい。しかし、自分で受診できない在宅患者はどうすればいいのだろうか。

 

 

医師会員であることに制限する理由はどこにあるのか。在宅医療専門クリニックに対して排他的な地区医師会は少なくない。そして在宅患者の6割は、非医師会員により在宅医療が提供されているという試算もある。地区医師会の排他的独占事業とするならば、非医師会員の診ている在宅患者に対して、医師会が責任をもってワクチン接種を行うべきだ。「医道の高揚、医学及び医術の発達並びに公衆衛生の向上を図り、社会福祉を増進すること」という崇高な医師会の理念がそれぞれの地域で具現化されることを強く願う。

 

 

ワクチン接種の迅速な推進は国策のはずだ。その中でも最優先されるべき在宅患者にワクチン接種がしにくい状況は迅速に解消されるべきだ。
まずは「在宅患者が自宅でワクチン接種が受けられる機会を保障すること」。そのためには、接種センターのみならず地域のかかりつけ医が在宅でワクチン接種を行うことを許容すること、その機会を非医師会員に対しても解放することが強く求められる。

 

 

ワクチン接種のみならず、感染拡大時の陽性者の自宅隔離・在宅療養支援など、いまこそ地域の中で能力を持った事業体が最適な役割分担の中で連携する、地域包括ケアの真価が問われるタイミングであるはずだ。より弾力的な推進にあたり、しかるべき立場の方々からの強力で実効力のあるイニシアチブに期待するとともに、該当する自治体・医師会の方々には、今一度、誰のため、何のためのワクチン接種事業なのか、考えていただきたいと思う。

 

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

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