――第30回 尊厳と“フェムケア”の深い関係――
この原稿を執筆している6月25日は、満月。6月の月をストロベリームーンと呼んだのはアメリカ先住民だ。彼らは、生活に密着した自然のサイクルに因んで月ごとに名前をつけている。
世界的に古くから人類は月の魅力に惹きつけられ、特に女性性との神秘に深く関心を寄せてきた。わたくしも日常は、月の満ち欠けのリズムを意識して過ごす。例えば、髪を切る、爪の手入れ、ボディーメンテナンス、時には治療の時期なども、月の満ち欠けをベースにタイミングを探る。
女性の生理は、平均28日から30日周期、月の満ち欠けは29.5周期と、ほぼ同じサイクルで変化する。
新月から満月の月が満ちていく約14日間は、女性の体に喩えると、排卵後から生理開始まで、水分をため込みやすくなる黄体期。エネルギーを蓄えようとするため、満月直前の数日間に摂取したものは吸収しやすく太りやすいという。
自身の身体への関心をポジティブに捉えなおすこと
人間関係についても、月が満ちる如く育まれる期間だとの説もある。生理のはじまりから排卵までの老廃物を排出しやすい卵胞期は、満月から新月に移行する月が欠けていく14日間になぞらえ、デトックス、洗浄、特に新月直前の数日間は、ダイエット効果も期待できると言われている。そして人間関係を見直す時期に適しているとも。
さらに、地球と人間の体の水分量や成分における関連性や、潮の満ち引きに影響を受ける可能性なども考えられている。ただ、これらには科学的根拠がないとされている。しかし、だからといって、女性性の探求を怠ってはならない。
「フェムテック(FemTech)」という言葉を最近、耳にされたことのある方も多いだろう。フェムテックは、female(女性)+Technology(テクノロジー)からなる造語。女性特有の悩みや課題を解決するモノやコトを指し、これまでタブー視されてきたことを、解決すべき課題とオープンに語られる機会が認知されつつある。以前のコラムでも伝えたが、女性の体のつくり、デリケートゾーンのケアに多くの女性が興味を持っているにも関わらず、知識がないために、悩みを解決できないまま諦めてきたという現実がある。自身の体に関心を持ってよいのだということ、コンディションに敏感でいることは決してネガティブでなく、当たり前に向き合えることとして、「フェムテック」がトレンドになっていくことは望ましい。
フランスで性科学を学び、植物療法師として活動する森田敦子氏は、北欧やフランスの高齢女性のフェムケアについて、「フランスや北欧の国々の高齢女性は、デリケートゾーンのケアが行き届いているので、いくつになっても膣まわりが潤っていて、尊厳に関わる排泄機能もしっかり保たれています」と、フェムケアがQOLに影響していると説明する。
日本の介護現場においても、デリケートゾーンのケアに関心を寄せる専門家もいる。褥瘡や身体のむくみ、デリケートゾーンのお手入れに植物療法を取り入れ、オムツ前の膣トレを行うことで、排泄機能が向上し、認知機能に良い影響が見られるケースもあるという。
女性たちが日々お顔のお手入れをするように、将来に備えて、フェムケアに軽やかに向き合える気運は、高まりつつある。
小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。