認知症の人・若者を支援
一般社団法人SPSラボ若年認知症サポートセンターきずなや(奈良県奈良市)は2014年から、農業法人と連携し、認知症の人や若者の社会参加を支援するプロジェクトを開始。梅林や果樹園での作業に参加した人に、賃金を支払う。このプロジェクトは、「追分梅林」の復興につながっている。
同法人は19年から、県の委託を受け、「奈良県若年性認知症サポート事業」を行っている。活動は、若年性認知症の人や家族から相談を受け、認知症の人同士の交流や社会参加を支援するもの。
現在、梅林や果樹園での作業の参加者は5~10名。日常的に草刈りを行ったり、収穫期には果実の収穫、出荷作業などを行う。認知症の人は長時間作業に集中することが難しいため、労働時間は1日2時間から4時間と短めに設定される。時給は900円前後。

観光地として復活した「追分梅林」
法人は09年に、園芸作業などを通して地域の若年性認知症の人にレクリエーションの場を提供するボランティアを始めた。
「ボランティアで認知症の人と接するなかで、症状が軽度で社会で活躍できる人も多いことに気づいた。しかし、そうした人々が再び企業に雇用されるのは難しいのが現状」と若野達也代表理事。企業の一般枠での雇用、障害者枠での雇用以外の、「第3の雇用の場」を作ることを決めた。
雇用の場を作るにあたり、法人の資金力や人手の不足という課題があった。そこで、地元の農業法人と連携し、かつて花見の名所であった「追分梅林」の復興プロジェクトを開始。地元の認知症の人が参加し、500本の梅の木を植えた。
農作業に参加することでよく眠れるようになり、生活サイクルが整ったという声や、一日中家にいたときと比べ家族との会話が増えたとの声があった。最近では、行政や企業による認知症の人をサポートする事業のオブザーバーとして活動する人も多いという。
現在梅林では年間約1トンの梅が収穫でき、2000人が花見に訪れる。昨年、プロジェクトで栽培する古来種「やまと橘」や夏みかんを京都の和菓子屋が買い取ることになった。日本生命と農林水産省から助成金を受け、梅林や果樹園の維持管理を行ってきたが、徐々に収益源が広がりつつある。
行政の農林課を介し、引きこもりの若者を支援する団体などもプロジェクトに参加するようになった。
「今後は、どこか生きづらさを抱える若者に、社会で働くうえでのスキルを教えられるような場を作っていきたい」と若野代表理事は語った。

若野達也 代表理事