社会福祉法人聖隷福祉事業団(浜松市)は病院7棟、特別養護老人ホーム18棟、有料老人ホーム12棟など、1都8県において212施設を運営、総職員数は1万6165名(4月時点)。「保健、医療、福祉、介護サービス」を包括的に展開する国内最大規模の社会福祉法人だ。4月1日、4代目理事長に青木善治氏が就任。青木理事長に社会福祉法人のあるべき姿などについて話を聞いた。

 

社会福祉法人聖隷福祉事業団 青木善治理事長

 

ICT導入強化 “聖隷DX推進”

 

 

──理事長の交代について。

青木 山本敏博前理事長は20年間、トップとして法人を牽引してきた。「拡大成長・事業部制の確立・ハイスピード経営」を掲げ、就任から退任までに、常勤職員数を4284名から1万188名、サービス活動収益は544億2400万円から1211億3200万円と、事業の拡大・経営安定という点では実績が実った時代といえる。また、外部との信頼関係の構築など重要な仕事をしてきた。一方で、DX化や関東地区の医療事業では、厳しい状況が続いており投資過多だった部分もある。今後は課題を抽出して修正していきたい。

 

 

――青木理事長がこれまで行ってきた取り組み。

青木 法人本部の総務部長を担当していた際にコース別の新人事制度を導入した。聖隷三方原病院の事務長として、新病棟建築や原価計算システムの構築に取り組んだ。また、財務担当役員に従事したときは、損益計算書に準拠する「PL経営」主体から、財務体質の強化を目指す「BS経営」「CFキャッシュフロー)経営」の導入による財務基盤の強化を行い、純資産比率を向上。環境担当役員時には、ASSET事業、ESCO事業などの推進により、エネルギー使用量(面積あたり)を削減させた。

 

 

――法人のこれまでの代表的な取り組み。

青木 1930年、結核患者の看病をしたことが事業の起源。その後、治療の対象も結核から一般疾病へと広げ、結核の予防対策として始まった検診は、人間ドック・健康増進などの事業へと発展した。看護師不足に対応するため、66年に「学校法人聖隷学園」を設立、69年の「聖隷学園浜松衛生短期大学」開学から数えて、大学・大学院含め9237名の看護師を輩出した。そのうち新卒で当法人へ3970名が就職。

 

70年代は高齢者の孤独死が社会的な問題になっていたため、高齢者に生きがいと健康管理を提供し幸せに過ごしてもらうことを目的に73年、有料老人ホームの先駆けとなる「浜名湖エデンの園」を開設した。81年には聖隷三方原病院で日本初のホスピス病棟「聖隷ホスピス」を開設。27の個室病床、礼拝室、談話室を備えており、毎年300人程度の患者が入院し、平均入院期間は約1ヵ月となっている。

 

聖隷ホスピスには84年にマザー・テレサの訪問や、94年には当時の天皇・皇后両陛下がご視察された。そのほか、訪問看護、保育事業、障害施設など、時代と地域のニーズに応じたサービスを提供してきた。最大の特徴は地域共生社会の先駆けとなる保健、医療、福祉、介護サービスを総合的に提供してきたことであり、事業を見返すとその時代に必要だったことを事業化している。

聖隷浜松病院外観

 

 

 

多様な福祉ニーズ対応 生活づくりの基盤構築

 

――社会福祉法人のあるべき姿とは。

青木 社会福祉法人は地域の多様な福祉ニーズに応える必要があり、事業の性質上、継続的に安定したサービスを提供する必要がある。地域における公益的な取り組みを進めていくべきだと考えている。偏りなく社会福祉事業を広げるため、持ち出しを覚悟して事業を行っている。住まい、社会とのつながり、生きがい、安心感のある暮らし、健康づくり、介護予防など、すべての人の生活づくりの基盤を構築する必要がある。

 

 

――職員の平均勤続年数が93年は5.9年、00年は7.5年、20年は9.7年と向上している。

青木 キャリア支援、処遇改善、健康経営の3本柱が大切だと考えている。当法人では女性が多く働く職場(7割が女性)のため、いかに女性が働きやすい職場環境を構築するのかが重要だ。その点では育休制度、育児短時間勤務制度を、法律を上回る仕組みにしたり、人事制度では転勤を伴わない雇用形態を推進したりしてきた。また、60歳を超えても働き続けることができる仕組みも構築。平均勤続年数の向上は、職員が長く安心して働けるように常に組織の改革を続けてきた成果だと考えている。

 

 

――ICTについて。

青木 ICT化は生産性向上を目的に中期事業計画の中で、「聖隷DX」として重点項目に取り入れている。医療分野では電子カルテ、介護分野では記録システム、見守りセンサー、インカムなどの導入を進めており省力化につながっている。現在、複数のセンサーなどを導入して適したものを検証している段階だ。候補は選んであるため、これから統一化していく。

 

 

未来につなげる共生社会へ

 

 

――今後の展望は。

青木 世界共通の価値観である「SDGs」を取り入れ、中期目標である「Vision2025」では、「地域連携体制の強化・デジタル改革・経営基盤の安定化を実現し、未来につなげる地域共生社会をつくる」ことを掲げている。

今後は、当法人の「Vision」に向けて取り組むとともに、その時々に必要とされる支援を、いかに迅速に提供できるかが問われる。その上で、現代のような「先の見えにくい時代」には、新型コロナウイルスのように想定できない未来がある。これまでの成功にとらわれず、社会の変化に敏感に対応しながら、自分たちの組織を常にアップデートできる柔軟性を持った組織を作り上げていきたい。

 

 

 

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