予防から看取りまで
NPO法人すむづれの会(沖縄県竹富町)は、八重山諸島の波照間島で小規模多機能型居宅介護事業所「すむづれの家」を運営している。小多機のほか、ふれあいサロン、配食、ボランティアの送迎、特産物の売店運営なども展開。介護予防から看取りまで対応することにより、島の地域包括ケアを構築した。

施設外観
診療所、密に連携で
波照間島は沖縄本島より南西に約450㎞の場所にある。日本最南端の有人島とされており、観光客も多い。面積は12.77㎢で人口は約500人、その内65歳以上は147人となっている。
すむづれの家はもともと同法人が実施していた、介護予防通所サービスを発展させ、2013年に小多機として運営をスタートした。現在島唯一の介護事業所となっている。利用定員は15人で、月あたりの利用人数は約200人。
開設のきっかけは、行政担当者や地域の事業者などが参加するワーキンググループが、島民を対象に実施したアンケート調査だという。どのような福祉サービスを求めているかについての回答で最多となったのは「島で最期まで暮らせること」。従来、島に介護事業所がなかったため、島民は重度なケアが必要になると、島外の介護施設・病院に入っていた。島で看取るケースはまれだった。そこで、1つの施設で必要に応じたサービスを柔軟に提供できる小多機を開設した。
観光物産売店も
利用者は日中主に、工作や料理などの活動をして過ごす。夏季には観光客にも人気の高いビーチ「ニシの浜」での水泳教室を行う。また、男性の参加を促すために設けられた「男の日」には、港で釣りを楽しむ。
介護予防などを目的にした通いの場であるふれあいサロンは、町からの委託を受け実施している。開催日は主に月~金曜日で、65歳以上の高齢者が対象。主な活動内容は、講師を招き、習字や弦楽器、三線などの教室や健康維持に役立つ運動を行うこと。デイの利用者と一緒に活動することも多いという。
また、生きがいづくり事業として、旅客船が発着する波照間港で売店も運営している。島の醸造所から仕入れる泡盛や、島の野菜など特産物を販売しており、週に1回ほど同事業所利用者が店頭で接客を行う。
さらに、配食やボランティアによる送迎サービスも行っている。

生きがいづくり事業として運営する売店
顔の見える関係 住民の信頼獲得
同事業所には、県立八重山病院が運営する島唯一の診療所が隣接。体調不良の利用者がいる場合は、診療所から様子を見に行く、定期受診が必要な高齢患者がいる場合は、すむづれの家の職員が送迎するなど、支え合う体制となっている。
看取りに際しては診療所の医師、看護師、介護職員の間で話し合いを行い、訪問時間の調整などを行う。日々の訪問時の情報は、SNS「LINE」のグループチャット機能で共有。文章・動画の投稿から、医師は駆け付けの必要をする。
同事業所の保田盛信旦副理事長は、「法人の理事長が診療所の看護師であるため、話し合いや協力体制が非常に取りやすくなっています」と話す。
看取りは専門職の連携に加えて、家族や周囲の人の協力が必須となる。法人は、介護保険のサービスに加えて、ふれあいサロン、配食事業、送迎ボランティアなどで、家族を含めた多くの住民と顔の見える関係にあり、信頼を築いている。そのため、周囲の協力を得やすい。
同事業所が存在することで、元気な時から看取りまでシームレスにサービスを受けることが可能となった。元気な間は配食や送迎サービス、ふれあいサロンを利用。また、介護が必要になれば、介護保険のサービスをスムーズに開始。通所が困難になれば訪問介護を利用し、看取り期にも、診療所と連携したケアを受けることができる。
「島では年間2~3人の高齢者が亡くなります。すむづれの家が関わることで、そのほとんどの人が島で最期のときを過ごせています」(保田盛副理事長)