心地よい環境創り

映画「83歳のやさしいスパイ」の上映&トークショーに登壇した。

 

ストーリーは、妻を亡くしたばかりの83歳のセルヒオが探偵に雇われ老人ホームの潜伏捜査をする。依頼者は母親が老人ホーム内で虐待や盗難にあっているのでは?と疑念を抱き探偵に依頼するのだが、心優しいセルヒオは直ぐに馴染み、ホーム内で人気者となる。

 

 

亡くなっているであろう母が迎えに来てくれないと悲しむ人にも可笑しな表情一つせず心を通わせる、家族と会えない寂しさで涙する人には「泣きたいときは泣いていいんですよ。心が落ち着きます」と心温まる言葉を贈る。

 

住み慣れた自分の住まいから老人ホームに入所することはどんな気持ちなのだろうか…。

 

この映画を鑑賞し改めて考えた。目を閉じていても何処に何があるか分かる住まいから、知らない場所、初めて会う人、馴染みない物に囲まれた生活への移行。それは簡単に受け入れられるものなのだろうか。私自身、そう先ではない未来を見据えた時、環境が変わることは全くもってイメージできないし、どこかに入所して知らない人と暮らすことなどは想像もできない。

 

そう考えると、利用者さんが入所時に不穏な行動があってもそれはごく自然なことだと私は思っている。「昨日入所なさった方が不穏で大きな声を出し、他の方まで不穏になり困ります。落ち着くお薬をお願いします」と言われることがある。

 

 

でも自分に置き換えて考えても、本当は家に居たかったのにここに連れてこられた。または一応いいとは言ったけど、やはり前の慣れた所のほうが居心地がよかった。不穏理由はそれぞれだと思う。難しく考えることなく、枕が変われば落ち着かずゆっくり休めないだけであって、「認知症だからここに来たことが理解できなくて、説明しても分からず落ちつかなく困っています」。

 

そんな言葉は少しわきに置き、私たちケアのプロとしては、その方の今までの環境や生活、家族、職業歴を理解してコミュニケーションをとり、セルヒオのように心通わせ真摯に話を聞くこと。それが利用者さんの心根に触れることとなり、今の寂しさや不安を言葉に出しながらも、段々と居心地のいい場所へと変化していくのではないだろうか。

 

その手ごたえを感じた時が介護の醍醐味でもあると思う。

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

 

 

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