6月18日、規制改革推進会議が1年にわたり審議し、答申に基づき策定された「規制改革実施計画」(以下、実施計画)が閣議決定された。今後、各府省庁でその実施が求められる。著者も規制改革推進会議の医療介護ワーキンググループの専門委員の1人だ。今回は実施計画に盛り込まれたオンラン診療、電子処方せん、オンライン服薬指導の「デジタル完結3点セット」について見ていこう。
実施計画では、オンライン診療について、「初診からの実施は原則、かかりつけ医」とする。ただし、かかりつけ医以外の医師でも、あらかじめ診療録、診療情報提供書、地域医療ネットワーク、健康診断結果等の情報により、患者の状態が把握できれば可としている。またオンライン服薬指導については、従来のようにはオンライン診療または訪問診療の患者には限定せず、薬剤師の判断で初回からオンライン服薬指導を行うことを可能とした。さらに、介護施設などに居住する患者への実施にかかる制約も撤廃。オンライン診療、オンライン服薬指導については、その診療報酬についても検討するとした。
さらに、2022年夏に予定される電子処方せんシステムの導入を視野に、「薬剤配送」についての検討も明記した。これまでは患者が薬局に処方せんを持参し、薬局で調剤と服薬指導が行われていた。電子処方せんやオンライン服薬指導が可能になると、わざわざ患者が薬局に出向く必要がなくなる。薬局側も患者宅への薬剤配送を医薬品卸や宅配業者、さらにはドローンで配送することも可能となる。このように配送まで含めた「一気通貫するオンライン医療」の実現を目指すと実施計画には明記された。
こうした一気通貫のオンライン医療の先に見えてくる景色とはどのようなものだろう。一足先を行く米国の例から見ていこう。米国では薬局から医薬品を宅配するメールオーダーサービスが進んでいる。このサービスは最初、在郷軍人局が高齢化して薬局に薬を取りに行けなくなった退役軍人向けに始めたサービスだ。これが今や一般化して、処方薬の2割以上を占めるようになった。
医師がメールオーダー処方せんを発行すると、最初の1回は薬局で薬剤師が対面での調剤と服薬指導を行うが、それ以降は宅配で自宅に処方薬が届き、電話やオンラインで薬剤師が患者に服薬指導を行う。メールオーダー薬局では、調剤業務はオートピッキングのラインが立ちならんだ「調剤オートメーション工場」で行われる。生産性も1週間で200万枚の処方せんを処理するというように極めて高い。このため、対面による調剤よりも圧倒的に安価だ。
日本でも規制緩和の先に、こうした近未来がやって来るかもしれない。
武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)