担い手は就業難の非正規労働者

 

人手不足65万人に

厚労省が将来の介護職員の不足数を公表した。2025年度には約243万人、2040年度には約280万人の介護職員が必要と推計。推計は市町村の第8期介護保険事業計画(21~23年度)に基づいて都道府県が算出した介護職員の必要数を集計した。

 

現在、介護職員は増加傾向だが、このペースで増えても、25年度には約22万人、40年度には約65万人が不足するという。
人手不足の大きな要因は低賃金。これまで介護保険で処遇改善加算を積み上げてきたが、他産業と比べると相変わらず低い。人材確保策として、今年度から未経験者が介護者になると、支援金20万円を都道府県が支払う事業を始めた。
また、外国人労働者に頼ろうと、19年4月から始めた特定技能実習生制度では、5年間で6万人の受け入れを見込んでいたが、コロナ禍で空振り状態だ。

 

 

コロナ禍で就業に異変

 

そこで、「奥の手」の登場を期待したい。家族介護者への現金給付である。コロナ禍でデイサービスの休止や入院を逡巡して自宅にこもる要介護高齢者は多い。しかし、日々の介護は欠かせない。
その担い手は、コロナ禍で離職や労働時間の削を強いられる非正規労働者が、家族介護の担い手になりがちだ。その家族に介護保険からの給付への道を開くのが現金給付である。

 

ドイツの介護保険では実現している。現金給付を選択すると、要介護度に応じて給付を受けられる。例えば、要介護5であれば月々901ユーロ(約11万7000円)支給される。
同じ要介護5で、訪問介護やデイサービスなどの現物支給の1995ユーロ(約25万9000円)に比べ半額以下と少ない。プロと素人で差があるのは当然かもしれない。
それでも1995年からの制度開始以降、現金給付を受ける要介護者は多い。当初は全体の6割強にまで達していたという。

 

 

ドイツの先例に学ぶ

 

日本では同居家族からの介護を前提にして介護保険が始まったが、家族介護は全くの無償労働である。現金給付は女性による家族介護を助長し、「介護の社会化」という介護保険の理念に反するとして退けられた。
それがドイツではほとんど反対意見もなく続いている。なぜか。家族介護者への仕組みに謎解きがあるようだ。

 

家族介護者はなんと「労働者」とみなされる。まず、現金給付は要介護者の口座に振り込まれ、家族介護者に労働内容に応じて支払う。つまり要介護者が「雇用主」となり、子どもや親族、近隣者などに介護費を渡す。
介護者たちは、労働者だから年金や労災保険、失業保険などの社会保険に加入できる。介護労働者として1週間の介護時間は14時間以上が必要とされ、他の就労先での就業時間は30時間を超えてはならない。

 

世界に先駆けて、ビスマルクが近代社会の労働法規と社会保険制度を確立させた国ならではの考え方である。
さらに、現金給付の受給者は、地域の訪問介護事業所から半年ごとに介護状況のチェックを受けねばならない。要介護者がどのような介護を受けているか調べられる。お金だけ受け取って介護をしない不法行為を防ぐためだ。

 

 

男性介護者3人に1人

 

一方日本では、検討対象ではあるが実現していない。今回の介護報酬を議論した厚労省の社会保障審議会介護保険部会で現金給付を「現時点では導入することは適当ではない」と結論を下した。
2019年12月5日に開かれた第87部会のことである。
また、この20年の間に家庭での男性介護者が急増している事実にも注目したい。2018年度の高齢社会白書では男性介護者は34%に達した。高齢者夫妻での介護や母と息子世帯の息子介護など家族の変容で男性が担い手になる比率が年々高まっている。男性の増加で家族介護を「労働」と捉えるドイツのような考え方が浸透する可能性も高い。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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