電話やオンラインでの夜間・休日の医療相談に応じ、必要があれば救急往診などを行う時間外救急のプラットフォーム、「ファストドクター」(東京都新宿区)の活動が注目されている。新型コロナウイルス自宅療養者を診療する医師たちの姿をテレビ報道で目にした人も多いだろう。全国10都府県のパートナー医療機関の医師や看護師、医療従事者と協力し、自らも現場で救急診療に携わる菊池亮先生に、活動理念や今後の展望などについて伺った。

 

一般の救急外来と同程度の設備を備えたファストドクターの救急医療機器(提供ファストドクター)

 

 

 

――そもそも夜間や休日に特化した医療サービスを提供しようと思われたのはなぜでしょう?

きっかけは今から10年ほど前、大学病院の整形外科医として関連病院に出向していた頃でした。髄膜炎が疑われる患者の転院先を見つける必要があったのですが、入院調整が難航し、ようやく20件目で受け入れ先が決まったことがありました。

 

 

 

〝ねじれ〞変えるため

 

本来大きな病院は、危険度の高い患者を優先して受け入れられるキャパシティーをきちんと確保していなければなりません。しかし、軽症なのにさまざまな理由で地域の診療所などに通院できない患者が大病院に集中することで、救急医療体制が疲弊し、重症患者を受け入れられないという〝ねじれ〞が生じてしまっていました。自分たちで、こうした患者の受診行動を入り口の部分から変えられないかと思ったのです。

 

 

一方、2040年に向けて都市部で高齢者が増加していくなか、その受け皿となる施設は非常に不足して、多くの人が自宅に溢れていくことが予測されます。ですからご自宅で高齢者をしっかりと支えられる仕組み作りが必要なのに、今実際に訪問診療を受けることができる人はほんの一握りです。ではそのほかの人たちをどうやって支援していくか。

 

 

「かかりつけ医機能」の強化は今まさに国全体で進められていますが、日中はカバーできても、夜間・休日の救急診療をどうするかという問題は残ったままです。ここを埋め合わせ、なおかつかかりつけ医とうまく連携できる仕組みを作りたいとの思いがありました。

 

 

 

――地域医療連携が活動の1つの柱と前編でも仰っていました。かかりつけ医や地域の病院などとの分業・連携が大切ということですね?

はい。基本はあくまでかかりつけ医です。僕たちが目指すのは、そのテリトリー外の部分での診療と往診代行を担うことで、互いの共存をはかることです。24時間対応の在宅クリニックはあっても、そのほとんどは1人開業医の先生が使命感で身を削ってやっています。でも夜間に我々と連携することで日中のパフォーマンスを高めてもらえれば、無理のない36524時間体制を作っていけるはずです。

 

 

病院との連携では、入院が必要な患者を我々の方から案内するケースが多いですね。#7119(消防)との連携も見据えています。緊急性が低いのに、通院が難しいから救急車を呼ぶ、といった事例が結構あるんですね。今後、正しい受診行動を周知させていくことが、まさに僕たちに求められていると思っています。

 

 

通院困難者に医療支援を

 

最近では我々の理念に共感してくれるドクターも増え、「仲間」と認めてもらえる機会も増えてきました。今回、危険を伴う在宅でのPCR検査実施にあたり、ファストドクターに所属するパートナー医療機関のドクターに協力を仰げるかどうか聞いたところ、約7割の方が「やります」と手を挙げてくださいました。医師としての正義感と倫理観を備えた方々が「第2の常勤先」のような形で我々を捉えてくれているところがすごく嬉しいです。

 

 

こうしたモチベーションの高いコミュニティーづくりに取り組みつつ、全国の通院困難な方々に救急医療をしっかり届けていくこと、そして地域の医療機関およびかかりつけ医との連携を通して、それぞれの医療機能を高めていくこと、この2つの命題を、まずやり切っていきたいです。

 

 

 

――今回のコロナ禍で、日本の医療の課題についても浮き彫りになりました。

日本では、いざという時に患者が頼れる場所が明確になっていません。やはり「かかりつけ医機能」の強化が求められると思います。

今回、積極的な治療を望まない高齢のコロナ患者が施設から救急車で病院に搬送されるケースがかなりありました。しかし、望まない救急搬送や入院は、誰も幸せにしません。普段から、人生の最期のあり方について家族や周囲との間で認識合わせをするACP(アドバンス・ケア・プランニング)が非常に大事です。かかりつけ医には、これを推進する役目もあるんです。

 

 

デジタル化の遅れも露呈しました。オンライン診療なども、諸外国と比べてかなり遅れていますよね。高齢化が進むと、物理的に歩けない人も増えていきます。かかりつけ医とオンライン診療という両輪が必要なのではないでしょうか。

 

 

もちろんオンライン診療には限界があるため、どこまでがオンラインでよくてどこから対面の診察をすべきなのか、医師の間でのコンセンサス作りが大切です。

ケアの充実も求められます。たとえば在宅コロナ患者への往診体制は整ったとしても、その後に食事や排泄などの介助やリハビリをするスタッフが加われない問題はまだ未解決です。地域の認知症患者や介護うつを発症したご家族へのケアなども含め、医療者だけでなくさまざまなプレイヤーによる施策作りが必要となります。

 

 

これまで、通院困難な人への医療支援の手段は実質的に救急車しかありませんでした。しかし、医療相談からもう一歩踏み込んで、実際に手を差し伸べられる体制を取れるのが僕たちの強みであり、社会課題を解決できるポイントなのかなと思っています。

 

聞き手・文/八木純子

 

ファストドクター株式会社 代表取締役 医師 菊池亮先生

 

 

 

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