――第31回 ドラマに見る〝命を救う〞使命感――

 

「有事」の戦略的医療提供体制と地域医療の進化

 

7月から放映されている「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」(日曜劇場TBS系)をご存じだろうか。高視聴率を見込めることから、各局がやり尽くしている医療ドラマに、視聴者はやや食傷ぎみというところだが、初回から関東地区で14・1%、関西地区は15・5%を記録し、じわじわと右肩上がりの視聴率をたたき出していた。

 

 

〝MER〞は、モバイル・エマージェンシー・ルームの略称で、石田ゆり子が演じる東京都知事の特命で設置されたプロフェッショナルチーム。鈴木亮平が演じる主人公のチームリーダー喜多見は「待っているだけじゃ、救えない命がある」という信念のもと、最新の医療機材とオペ室を搭載した大型車両(ERカー)で現場に駆けつける。彼らに課せられたミッションは、〝死者ゼロ〞。大活躍する最新鋭のERカーは、8トン車を6ヵ月かけて改造した架空のものだが、監修した救命医らが「実在したら最高だ」と唸るほどの車両だという。

 

 

物語は、海外ドラマの国際救助隊「サンダーバード」(1965年イギリス)を彷彿させる、現実離れした、ある意味強引なストーリー展開ではあるが、視聴者からは、事故、災害、事件現場へ果敢に挑む、壮大なスケールとスピード感に絶賛の声が高まる。そして何より人々の心を震わせたのは〝命を救う〞揺るぎない使命感。さらに、医師、レスキュー隊・消防、警察が互いに敬意を払い、タッグを組んで最善を尽くす姿が描かれ、まさに〝ヒーロー〞的存在の眩しさだ。

 

 

現実世界に視点を移してみると、東京女子医科大学東医療センターにおいて、私立医大では日本初となる、外科専門医取得プログラム〝緊急外科Acute CareSurgery(ACS)〞の新部門を設置する予定だ。ACSは救急外科・外傷外科・集中治療の3領域を担当する新しい専門領域であり、消化器外科、心臓・血管外科、呼吸器外科、乳腺外科、小児外科を広く経験し、体幹部外傷・血管損傷・急性腹症に手術対応できる〝総合外科医〞を育成する方針だ。2022年からはHybrid ER system(緊急手術室とIVR│CTの融合)を稼働させ、新しい時代の外傷診療をスタートさせる。三次救急に運ばれてくる重症外傷の多くは多発外傷であり、複数の外科系診療科にまたがる。

 

 

しかし、各科の当直医を全て配置することは不可能であり、自宅待機の臓器別外科医が到着するのを待っていては、わずかな救命のチャンスを逃す。そこで、外傷外科医による超緊急手術が不可欠となる。まさに、待たなければ命が救えるのなら、超重症外傷の救命が行える医師を育て増やすことが望ましい。

 

 

政府の方針が、高度急性期と急性期のベッド削減へと向かい、救急医療の空洞化が進む地域もあるなか、劇中の対立は現実味を帯びており、まるで緊急医療の価値を国民に問うかのようだ。
新型コロナウイルスの出現で、わが国の医療提供体制にも様々な課題が顕在化した。「有事」における迅速で戦略的な体制づくりと、将来に向けた地域医療の進化について、かつてないほどに多くの国民が関心を深めていることだろう。

 

 

今度こそ、政府・自治体・医療機関が危機感を共有し、実効性のある医療計画が必須であるとともに、病院の機能分化と診療報酬体系の簡略化へ医療が進化するタイミングではないか。

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

 

 

 

 

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