4度目の送迎車降ろし忘れ死亡事故が起きました。7月29日、福岡市の保育園で送迎バスを運転していた園長が、5歳の園児を降ろし忘れて放置し死亡させました。2007年、10年、17年に同様の事故が起きています。事故の直接原因は運転手が園児の降車確認を怠ったことですが、人のミスが即、死につながるような業務手順に問題は無いのでしょうか?度重なる事故の対策を考えます。

 

 

 

■運転手がミスしても事故につながらない仕組み

今回のような事故を防ぐには、2つの対策が必要です。1つ目は、運転手が最終降車者をきちんと確認する対策です。2つ目は運転手が利用者を降ろし忘れた時に、ミスに気付く対策です。
ヒューマンエラーによる事故の防止対策では、ミスを防止する仕組みを作ることと同時に、ミスが起きた時ミスを発見して是正する仕組みが必ず必要になるのです。

 

 

このセオリーは誤薬の防止対策とも共通しています。誤薬防止対策では、薬を取り違えたり利用者に誤った薬を渡したりしないように、ミスを防止する仕組みを作ります。どの施設でもやっている誤薬の防止対策で、「お薬ボックスから薬を取り出した時、利用者の氏名を声に出して読み上げ、職員2人でダブルチェックする」という対策です。
しかし、ミスを防ぐ対策だけでは足りません。服薬直前にもう一度薬の確認と、利用者の本人確認をより確実にできる仕組みが必要になるのです。具体的には、服薬確認カードによる薬と利用者の写真照合です。

 

 

■降ろし忘れミスを防ぐ対策

私たちが行っている対策は、「運転席に注意喚起ステッカーを貼る」「降車の介助は必ず車両の後部座席まで行って介助する」「最終降車者のチェック表を記入する」などです。しかし、防ぐ手順をルール化しても、人はルールさえ忘れてミスをしますから、降ろし忘れに気付くための仕組みを作ります。

 

例えば最後部座席の天井にミラーを付けて、運転席から座席上が見えるように工夫する、送迎車業務の終了時(駐車場に駐車する時)に「複数職員による終了時点検と報告」をルール化するなどです。職員の注意力に頼らず、ミスを防止する仕組みと、ミスが発生した時にミスを発見する仕組みを作っておくことで、ミスをしても事故につながらずに済むのです。

 

 

■なぜ保育士は居ないことに気付かないのか?

過去に3回起きている送迎車降ろし忘れ死亡事故は、いずれも降ろし忘れた送迎者の責任ばかりが追及されています。もちろん、今回の事故でも送迎バスを運転していた園長が降車者の確認を怠ったことが直接の事故原因なのですが、保育園のスタッフは被害者が来ないことになぜ気付かなかったのでしょうか?園児来園後に園児の出欠確認をしていれば、居ないことに気付き被害者を助けられたはずなのです。保育園では、来園した園児の出席はとらないのでしょうか?

 

 

同じ事故が10年7月に千葉県のデイサービスでも発生しています。運転手が降ろし忘れた利用者を送迎車内に夕方5時まで放置して熱中症で死亡させました。この事故では、ドライバーが利用者の臨時利用の申告をスタッフに伝え忘れており、デイのスタッフは被害者がこの日来所することを知らなかったことが後に判明しました。しかし、送迎車に備え付けてある送迎表には利用者の氏名が記されており、これを確認すれば把握できたはずです。

 

デイでは、日ごとの利用者表がありますから、これに則って当日来所後に出席確認をしなければなりません。原簿となる利用者表も間違いがあるかもしれませんから、送迎表、食事表、入浴介助表などと照合して利用者を確認する作業をすれば、より確実に利用者の確認ができます。
保育も介護も個別の利用者を大切にすることが、最も重要なことは言うまでもありません。福祉の事業を運営する者の責任として、「利用者が居ないことに気付きませんでした」は絶対に許されないのです。

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。

 

 

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