団塊世代に合わせてつくり変える
中部地方にあるSデイサービスセンターは、定員が60名の比較的大きな施設です。特長は「リハ専門職による個別リハ」「充実した機能訓練機器」です。浴室もあり、入浴動作訓練もすることができます。ここまでは、よくある「リハビリ特化型デイサービス」と同じです。
違うのは大規模であることと、1日2回転ではなく〝終日型〞というところでしょうか。この施設の周囲にも、リハ特化施設は多数あります。大手ドラッグストアと提携した〝買い物リハ〞があったり、様々な活動メニューがありますが、それでも競合は避けられそうにありません。
ところが結果はというと、感染を予防するために完全予約制で行われた内覧会には、ケアマネが110人、一般の方が約80人参加しました。
当初の設定では足りず、日程を増やしてなんとか受け入れが終わりましたが、それ以降も見学希望者は増え続けているそうです。その結果、オープン(8/1)前に利用を決定した方が約30人。それに加えて、オープン後の現在(8/18時点)の利用希望者は約20人おり、現段階で合計50人の利用が決まっています。8月後半も利用希望者の見学が多数予定されているそうです。初月の結果が楽しみでなりません。
競争が激しいエリアにもかかわらず集客が大成功している理由は、練りに練った営業戦略にもありますが、それ以上に影響しているのは、団塊の世代の心を鷲掴みにする〝遊び心〞でしょう。
例えばトレーニングマシンは、メジャーリーグで大活躍した野球選手イチローが使っていた〝初動負荷マシン〞です。身体への負担を最小限にしながらも、筋力や柔軟性を向上できるというのが特長です。マシンの隣には、デジタルサイネージによってイチローやダルビッシュなどの姿が映し出されます。これを見た男性の多くは「テレビで見たことがある」「これで運動したい」と興味津々です。カラオケ(発声や歌唱による認知症予防、健康増進のために実施)室は、まるでスナックのような内装で「昔はよく行ったよ」と現役時代の話を嬉しそうにはじめます。
また、カフェコーナーはまるで流行りのブックカフェのように、床から天井まで本や雑誌、写真集などが展示されていて、タイトルを見るだけで楽しい気分になります。もちろんドリンクにも力を入れていて、本格ドリップコーヒーをオリジナルマグカップやグラスで飲むことができます。
これだけではありません。この施設で最も力を入れているのが〝音響〞です。経営者自身が「これが一番のこだわり」というほどの高価なスピーカーを設置しており、とてもクリアな音を楽しむことができます。ケアマネの皆さんは「スタバより居心地が良い」「ここで仕事がしたい」と好評でした。
他にも、壁には懐かしい昭和時代の映画ポスターが多数貼られていたり、クロスや天井のデザイン、ソファやテーブルがレトロだったりと、遊び心が満載です。これを読んでいる方の中にも「見学したい」と思った方が多くおられると思います。特にデイサービスには〝介護施設らしさ〞はもう必要ないのかもしれません。時代は変わったのです。
■コンセプト×店舗設計
驚くほどのスタートダッシュが切れたのには、2つのポイントがあります。
一つはコンセプト。「誰(ターゲット)」に「何(顧客貢献点)」をしてもらう施設かが明確であることです。この施設の「誰」は立位が安定した軽度者です。重度者は想定していません。その証拠に、座り込んだら立つのに一苦労するソファが多数設置されています。「何」は、リハ職の指導のもと、徹底的に活動量を増やしてADLの維持・向上を目指していただくことを目的としています。
そして2つ目は、ターゲットに合わせた店舗設計、デザインです。敢えて「店舗」といったのは、飲食店や小売店など、介護業界以上に競争が激しい業種と同等レベルで、デザインや備品を工夫しているからです。今後、ますます大事になります。
施設長の皆さんにはぜひ、これを読むことで、ご自身の運営する施設の「誰」「何」にぶれがないかを考えるきかっけにしてください。
糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。