朝日と日経が社説で提言
日本経済新聞と朝日新聞が8月30日の社説で介護保険の長期的な課題を提言した。保険料を払う年齢の40歳以下への引き下げを共に論点としたことに注目したい。保険財政の強化策として当然だろう。
制度の発足時に議論されたが、その後下火になった。朝日は「職員の賃金増のため」、日経は「制度の持続性のため」としているが、反対論を主張する経済界の声もすくいあげ、掘り下げた議論を期待したい。
同社説で介護ロボットやICTを活用し「介護保険の膨張を抑えよ」と訴えた日経新聞は8月21日に、「介護給付抑制に『秘策』」と1面トップで掲載した。
給付費が下がった自治体をランキングしてその理由を聞いた。介護予防に力を入れた内容が多く、とても「秘策」とは言えない。給付減が「保険者の目指す施策」と受け取られかねない論調には疑問が湧く。
9月1日の東京新聞は、介護保険の新制度として話題の「科学的介護情報システム(LIFE)」を取り上げた。「データ入力量が膨大。時間や人を避けない」と嘆く社福法人と「まだ厚労省から分析結果のデータが届いていない」と参加した大手事業者、「やさしい手」の現状を報告。LIFEがケアの向上に本当に役立つのか、注視して欲しい。
「おうちにかえろう病院」という一風変わった名の病院がこの4月、東京都板橋区に開設された。読売新聞が8月18日から5回連載で、「おうちに帰る」様子をルポした。
自宅で最期を迎えた2人の患者と施設入居を決めた家族の葛藤を追った。「自宅で自分らしく死ねる」との理念で訪問診療所の「やまと診療所」が始めた病院である。
「自宅と病院を行き来する」形態は、今後の高齢者向け病院の進むべき方向を示している。制度上は「地域包括ケア病棟」の理想的な運営と言えるが、紙面では制度名が出てこない。病院の意気込みだけでなく、制度として普遍化できることも指摘して欲しかった。
「私はACPを自作し…意思表示カードに明記して財布に入れている」という判断に引っかかった。日本対がん協会の垣添忠生会長が8月22日の読売新聞に記している。「外出先で大事故に遭っても望むように死にたい」ためだという。
ACPは医療チームや家族、友人などと何度も話し合うこと、と解説していながら「自作」とはどういうことなのか。AD(事前指示)がうまくいかなかったと丁寧に歴史を振り返っているだけに、何とも腑に落ちない。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。