≪連載第143回 課題解決!介護事業相談室≫

 

 

前回に続き、「福祉施設における安全配慮義務」がテーマです。労働安全衛生関係法令で規定されている使用者が、安全配慮義務を果たすためにとるべき措置について、解説します。

 

 

良い労働環境なくして働きがいなし

 

 

【危険防止/安全装置を設置する】

事故やケガが発生する可能性のある場所には、適切な安全装置を設置して危険を防止しなければなりません。

 

 

【健康配慮/健康診断を実施する】

事業者は1年に1回、職員に健康診断を受けさせる義務があります。夜勤業務に携わる職員に対しては、半年に1回の健康診断が必要とされています。健康診断の実施および受診を義務付ける法令は労働安全衛生法の他にもあります。

 

学校・医療機関・施設職員および施設入所者に対しては、平成17年4月1日の結核予防法の一部を改正する法律施行後も従来と同様に、同法により定期の健康診断の実施義務(結核予防法第4条)、受診義務(同法第7条)および報告義務(同法第11条)が毎年度課されています。この受診義務は、施設職員については「業務に従事するもの」となっており、常勤、非常勤を区別していません。このため保健所は全職員についての実施報告を求めてきます。

 

 

 

【健康配慮/メンタルヘルス対策を実施する】
過度な労働や職場の人間関係でストレス過剰になる職員が増えています。これを受け、2015年には心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施が義務化されました。
職員の心の健康対策は、現代企業の大きな課題のひとつであり、今後もその重要性は増していきます。職員のメンタルヘルス不調を予防する取り組みのひとつが、ワーク・ライフ・バランスの実現です。ワーク・ライフ・バランスの実現は、職業生活におけるストレスを軽減し、職員の生活全体の質を向上させます。

 

また、より直接的なメンタルヘルス対策の方法として、個々の職員に対するメンタルヘルス教育や研修の実施、情報提供などがあります。いつでも相談できる社内カウンセラーを設置することも有効です。

 

 

 

【職場環境配慮/人間関係の改善やハラスメントの撲滅】
令和3年介護報酬改定において『介護人材の確保・介護現場の革新』の「介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取組の推進」の中に「ハラスメント対策の強化」が明記されました。
職員の精神面の安全や健康を考えるとき、職場の人間関係にも配慮する必要があります。
テレワークの普及により、介護現場でも以前と比べてコミュニケーション不足が問題になっている職場もあります。職場での何気ないコミュニケーションの不足が、人間関係にとって悪影響を及ぼすことを考慮する必要があります。

 

また、職場におけるハラスメント(嫌がらせ、いじめ)や差別は、職場環境を悪化させます。
ハラスメントや差別の言動が、加害者の故意ではないことも多いです。どのようなことがハラスメントや差別にあたるのかを、研修や教育を通じて職員に認識させることも防止策となります。

 

 

 

【過労死防止/労働時間の管理】
長時間労働の是正に対して、国の規制が年々厳しくなっています。まずは、労働時間の実態把握が欠かせません。その上で、使用者として職員の労働が法定労働時間を超えないような措置や対策を講じていく必要があります。
長時間労働が常態化している職場には、労働時間を「見える化」する、有給休暇の取得を推進する、管理監督者に対するマネジメント研修を実施するなど、長時間労働をなくしていく対策が必要です。

 

働きがいのベースにあるのが、働きやすい労働環境です。仕事にやりがいがあっても働きづらい労働環境では、働きがいがある状態とはいえません。そして、この働きやすい労働環境を考える上で不可欠なのが、安全配慮義務です。まずは安全配慮義務を今一度確認して、職場内の足元の労働環境の見直し、改善を行いましょう。

 

 

 

伊藤亜記氏
㈱ねこの手 代表

介護コンサルタント。短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に98年、介護福祉士を取得。以後、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行、大手介護関連会社の支店長を経て、「ねこの手」を設立。

 

 

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