――第32回 リーダーシップ・シフト――

 

 

9月8日、自民党の高市早苗前総務相が総裁選への立候補を正式表明する記者会見が開かれた。第100代にして、いよいよ初の女性首相が誕生するのか。

 

OECD加盟国の新型コロナ感染による死亡率は、女性が首脳を務める国の方が抑えられている(英ファイナンシャル・タイムス)との考察から、各国のリーダーシップにフォーカスしてみると、コミュニケーション力、即断、共感力、長期的な視点といったキーワードが浮かびあがる。

 

パンデミック初期、国内での感染発生の翌日に感染拡大警戒水準を最高レベルに引き上げ、翌週にはニュージーランド全土封鎖を実施してウイルスの蔓延を防いだリーダーは、ジャシンダ・アーダーン首相。科学的エビデンスを重視した迅速な対応は、一見に値する素晴らしい決断力だ。

 

ロックダウン実施を告げる直前、自身のフェイスブックから国民へ動画を発信した。「これから私たちは経験したことのない状況に直面します。ですから、少し皆さんとお話ししたいと思いました。私たちはいつでもあなたの声に耳を傾けていますから、決して一人ではないことを覚えていてください」と。

 

そして、「今後皆さんに送る指示は、完璧でないものもあると思いますが、基本的には、正しいものです」と真実を自分の言葉で語り、路上電子掲示板には「BE KIND STAYCALM」とメッセージを送る、彼女のシンプルで、きめ細やかなコミュニケーションは、国民の共感を得る。

 

デンマークでは、メッテ・フレデリクセン首相がステイホーム中の動画を投稿したことに、国民は好意的だった。一国の首相が、国民が何を望み、どんな生活を送っているかに想像力を巡らせる配慮に、国民は不安を拭えた。

 

新時代の女性リーダー、フィンランドのサンナ・マリン氏は、同国史上最年少の首相として注目された。

 

女性リーダーのロールモデルとして、ファッション誌に胸の谷間がうっすらと覗くジャケット姿で登場し波紋を呼んだ。一部では「下品」「信頼を落とす」「コロナに立ち向かうべき時間を無駄にしている」などの批判の声が上がる一方で、「女性差別だ」とマリン氏と同じ装いで「#サンナとともに」をつけてSNSに投稿した人たちや、ラトビアの福祉相はじめ「見た目でなく実績で評価するべきだ」と支持する投稿が広がった。マリン氏自らも覚悟の上でSNSに投稿し、多様性、ヒューマニズムを重んじる人々の援護を信じた。

 

政治家に限らず、企業、地域で求められるリーダーの資質を、米国の社会理論家でベストセラー「スペンド・シフト」、TEDスピーチ25万人視聴で知られているジョン・ガーズマ氏と、ジャーナリストのマイケル・ダントニオ氏が、共著『女神的リーダーシップ-世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である』にて示した。

 

13ヵ国、6万4000人を対象に調査が企画され、グローバル・サンプルの半数(3万2000人)に125の資質を提示し、「男性的」「女性的」「どちらでもない」のいずれかに分類。残り半数にリーダーシップ、成功道徳観、幸せといった美徳にとって、どのような資質がどれだけ大切かの評価を行った。結果、リーダーシップの項目は表現力、柔軟性、忍耐強い、直観力、共感力、忠実、情熱的、利他的、つまり求められるのは「女性的」な資質だった。〔次回に続く〕

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

 

 

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