栃木県那須町の廃校になった教室。7月下旬。校庭に新築されるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の入居企画説明会が開かれ、30人ほどが集まった。
「今の40坪の住まいから引っ越すと半分になってしまう。どの家具を持っていこうか悩んでいます。相談に乗ってもらえますか」。
入居を決めている参加者から手が上がった。会が終わると、手書きの部屋の間取り図を示しながら、設計者と話し込む人もいる。

 

 

旧朝日小学校を活用する壮大な近未来型の「那須まちづくり広場」が動き出した。改修工事が真っ最中だ。3年前に「コミュニティカフェここ」と「マルシェ あや市場」が先行開業。カフェでは、近隣住民がランチにやって来る。地元で採れた野菜、味噌、酒、自然食品などが山のように並ぶのがマルシェである。

 

ランチのメニューが書かれたカフェの黒板が教室を思い出させる

 

 

全体プランを描くのは那須まちづくり株式会社。代表の近山恵子さんは多くの高齢者住宅を手掛けてきた体験から「まちづくり」を集大成事業とした。「高齢者に良い環境は、誰にとっても居心地が良いはず。高齢者住宅の周辺に子どもや若者、障害者、子育て世代が寄り添いながら生活する。そんなコミュニティを目指したい」。

 

 

多様な少子高齢施策をかき集めた。地域包括ケアや共生社会、職住一体、地産地消などの考え方を組み込んだ。
3教室分を使う定員18人の高齢者デイサービスは来年6月の開設予定だ。その隣は、児童発達支援や放課後等デイサービス、生活介護事業など障害児者の専用スペース。常設の授乳スペースやアートギャラリー、菓子工房なども連なる。

 

校長室と職員室は地域交流ホールになり、グランドピアノが鎮座する。2階には、14戸の「セーフティネット住宅」。それに一泊3千円で36人が泊まれるゲストハウスの2段ベッドが整った。
セーフティネット住宅は、主に高齢者や低所得者、障害者、ひとり親世帯など「住宅確保要配慮者」向けの集合住宅。国交省が2017年10月から始めた新事業である。

 

 

校庭に建つのが元気高齢者のための54戸の2棟連結型サ高住。東日本大震災の仮設住宅として使われたログハウスも再利用する。その入居企画説明会が毎月のように実施され、この日は18回目だった。
来年1月には校舎脇のプールを基礎にして、26室の要介護者向けサ高住も建つ。その脇には、ベテラン看護師が付き添うユニークな5室の「ナースさくまの家・那須」。東京都三鷹市で8年前から「自分らしい終末期を」との考えで「さくまの家」を運営してきた佐久間洋子さんが主宰する同様の「看取り住宅」である。

 

 

こうして、高齢者住宅は「自立」「「要介護」「看取り」の3種類がそろう。要介護者向けサ高住とデイサービス、それに「定期巡回随時対応型訪問介護看護」を運営するのは、介護の専門事業者「ワンランド株式会社」だ。福島県郡山市に本社を置き、いずれも郡山市や須賀川市で実績がある。

 

 

注目されるのは、「協同労働」を掲げる「NPO法人ワーカーズコープ那須」の参画だ。働く人が出資して経営に加わるという日本では珍しい仕組みが協同労働。新法が成立したばかりで、来年10月に施行される。
1階のカフェとマルシェの運営が、この4月に「那須まちづくり」から同ワーカーズに替わった。ワーカーズは、放課後等デイサービスなど障害児者のサービスとゲストハウスも担い、カフェやゲストハウスなどは、就労支援B型事業の働く場にもなる。

 

 

来年10月には全住宅が竣工する。サ高住など居住者の総定員は100人前後。障害の有無に関わらず、多世代の住民が集まる。すでにスタートしている「楽校(がっこう)」と名付けた染物や絵画など多くのアート講座もあり、「文化」の発信も注目される。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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