喜びを響かせるメソッド

 

福祉大国スウェーデンで生まれた音楽療法「ブンネ・メソッド」を通して幼児の情操教育と高齢者・認知症者のケアに勤しむ高橋公子さん(ブンネ・ジャパン/東京都港区)。「限られた生の終わりはいつ来るかわからないから、今日思ったことや伝えたいことは今日中に伝えたい」との熱くまっすぐな思いを胸に、生きがいをもたらす〝ツール〞であるブンネの実践に取り組んでいる。

 

 

 

――「ブンネ・メソッド」で使われる「ブンネ楽器」には、どのような特長があるのでしょうか。

ブンネ楽器には、スウィングバー・ギター、単音フルート、ミニベース、チャイムバー(鉄琴)の4つの種類があります。ブンネ・メソッドの生みの親でプロのバンドマンだったステン・ブンネさんが、音楽で社会福祉に貢献したいと自ら開発しました。

 

 

ただ音楽を聴くのではなく実際に自分で楽器を奏でることで、脳は比べものにならないくらい活性化されるそうです。でも楽器って練習が必要で、そこで多くの人が挫折してしまう。だったら誰でも練習なしで弾ける楽器を作ろうということで、ブンネ楽器が誕生したんです。

 

 

いくつかの音を同時に響かせる和音で演奏すれば、音の外しが目立たなくなるばかりか単音では育めない想像力も生まれます。「カ、エ、ル、ノ、ウ、タ、ガ…」という単音よりも、和音で「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ…」と聞こえた方が広がりが出ますよね?

 

ポップなデザインも楽しいブンネ楽器(提供:ブンネ・ジャパン)

 

 

 

誰もがすぐに弾ける楽器

 

――これまで全く楽器を弾いたことがなくても本当にマスターできるのですか?

もちろん。3秒後に弾けます(笑)。たとえばスウィングバー・ギターにはD、A、Gの3つのコードしかなく* 、真ん中、右、左、という三方向にレバーを動かすことでそれぞれのコードを押さえ、世界中の何十万という曲が弾けるようになっています。

 

 

施設で合奏する際、高齢や障害のためギターを弾きづらいという場合は、フルートかチャイムバーを担当してもらいます。それぞれ単音で、1人に1本ずつ異なる音が渡されます。「単音ではつまらない」と言う方もいますが、その音が欠けたら曲にならない、大事な役割です。

 

 

単音を奏でることで「待つ」という機能訓練にもなります。認知症になり、じっとしていられない方やずっと歯を磨いている方がいらっしゃいますが、自分のパートまで「待つ」ことが習慣化された結果、それまで固執していた動作から離れることができたという事例もあります。

 

 

演奏は、研修を通してブンネ・メソッドを学んだ「ブンネ・リーダー」と呼ばれる指揮者がまとめます。指揮といっても、ギターのコードと同じ三方向を示すだけです。簡単なので誰でもできます。

 

 

 

――でも、ブンネ・メソッドの本当の目的は、簡単に楽器が弾けることではないのだとか?

指揮者の動きを認識し、左右の手を別々に動かして楽器を奏でながら頭に歌詞を思い浮かべ、声を出すというのは、ものすごい機能訓練になるんです。しかも懐かしいあの頃の歌、となれば、回想法にもつながります。演奏し歌うことで運動効果だけでなく肺など内臓の活性化も期待できますし、音が肌を通して細胞にも刺激を与えますので、細胞も活性化されます。

 

 

重度の認知症で、ブンネの時間も車椅子に乗ったままうとうとされている方をよくお見受けします。でも、音が鳴るとちゃんと起きてバッチリとリズムを刻んで演奏するんですよ。
で、その曲が終わるとまた寝てしまう(笑)。頭ではなく身体全体で音楽を感じておられるんですね。涙が出るほど嬉しい光景です。
楽器が弾けたことを毎回忘れ、みんなで演奏できたことに感激して毎回涙される方もいます。「楽しい時間を共にしてくれてありがとう」って毎回感謝されるんです。そんな時は、この仕事の醍醐味を感じますね。

 

 

歳を重ねると、いろんな不安や諦めなどが日常と隣り合わせになってきます。
認知症の幻覚や幻聴、暴力といった周辺症状(BPSD)も、不安と恐怖から発症しているものですよね。でも、みんなと一緒に演奏することで心が解放され、安らぎ、新しいことができるという喜びや達成感を味わうことができます。
つまりブンネは、機能訓練を兼ねつつ、「自分はここで生きている意味がある」と実感し、社会とつながるためのツールなんです。

 

片手でレバーを操作し、もう片方の手で弦を弾く(提供:糸島市音楽スタジオ&カフェ Greenchord)

 

 

 

――「自分が生きることの意味」を感じながら生きられたら素晴らしいですね。なかなか難しそうですが。

認知症の方々は、〝今ここ〞を生きるプロフェッショナルだと思います。一方私たちは〝ド素人〞。「また明日も仕事かぁ」なんて先のことばかり考えているから、夕焼けを見て「綺麗だなぁ」って感動したり「ブンネ弾いて楽しいね」って泣いたりするような感情を忘れてしまっているんです。

 

 

「いいネ」毎日感じて

でも人ってやっぱりこうした喜びや高揚感、やりがいや生きがい、相手に求められているという実感がないと、死ぬんですよ。だからこそ、この世に生まれてきた誰もが、「私って、いいネ」って毎日思いながら、もっとありのままの自分で〝生きる〞ことができるようになればいいなって思います。その思いをまずはブンネの活動に乗せてみようと。すべての人が個性と得意なことを活かしつつ、社会における自らの役割や存在価値を感じられることこそが、「well│being」につながると思うんです。

 

*指で4つ目のコード「E」を押さえることも可能。

 

聞き手・文 八木純子

Bunne Japan株式会社 代表執行役員 株式会社朝日ケアコンサルタント プログラム マネージャー 高橋公子さん

 

 

 

 

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