2014年、民間シンクタンクの日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」。最も消滅の可能性が高いとされた群馬県南牧村では、人口減少に歯止めをかけるため、福祉の充実、移住促進の施策を実施してきた。その結果、2018年には転入が転出を上回った。南牧村のこれまでの取り組みについて振り返る。

 

 

群馬県南牧村は、群馬県の南西部に位置する山間部の村。大海に浮かぶ軍艦のような特徴的な山体の「荒船山」や、一筋の白線のように流れ落ちる「線ヶ滝」など、自然を求めて県外からやって来る観光客も多い。

 

 

高齢化率64.5%

かつてはこんにゃく芋の栽培で栄えていたという。しかし、1960年代に品種改良が進み、栽培地が全国に広がった。そこから、村の農業に陰りが見え始め、村を離れる住民も出始めた。それから人口減少、特に若手世代の転出が加速。現在では、人口約1600人、世帯数は1000以下、高齢化率60%を越える村となった。

 

長谷川最定村長は、2014年に現職に就任。以降、村の現状を打破するべく尽力してきた。長谷川村長が就任した年には、日本創成会議による「消滅可能性都市」が公表された。その結果自体に驚きはなかったと語るが、当時を次のように振り返る。「それによって役場の職員までもが、『もう仕方がない』といった気持ちを抱いており、そのことに危機感を覚えました」

 

南牧村 長谷川最定村長

 

 

高齢者住宅確保 再生計画を開始

 

長谷川村長の下、14年より「南牧村まち・ひと・しごと創生総合戦略」をスタート。少子高齢化・人口減少という課題に対応、地域社会を維持していくことを目的に、15〜21年の期間で実施した。計画のポイントは、「高齢者住宅の確保と、雇用の創出です」と長谷川村長は語る。

 

村にはショートステイ含めて60床の特養が1ヵ所存在していたが、待機年数が平均約2年半であり、その間に村を離れるケースが多かった。そこで、21床の地域密着型特養を新設。加えて、ケアハウスを開設した。「当初はサ高住の予定でしたが、住民の多くが農家、国民年金で生活しているという状況から、その範囲で利用可能なケアハウスを設置することとなりました」(長谷川村長)。それにより、介護が必要ではないが生活上不安がある中間層が村を離れずに済むようになった。

 

ケアハウスの開設など、高齢者福祉の強化から人口減少への対策をスタートした

 

 

ケアハウスを運営するのは、2で、先の計画の「雇用の創出」の一環で設立されたもの。村からの委託を受けて、道の駅「オアシス」や村のケーブルテレビ局の運営なども幅広く手掛けており、高齢者や、U・Iターン社の雇用の受け皿となっている。

 

NPO法人MINNAなんもくは、ケアハウスのほか道の駅も運営している

 

 

また、村の高齢者全員に、健康診断に加えてフレイル検診を実施。疾患やMCIの兆候を早期にスクリーニングし、予防医療を進めた。さらに、「1年間介護サービスなどを利用せずに過ごせた」場合に旅行券をプレゼントする企画も行い、住民が積極的に健康寿命延伸に取り組めるようにしたという。

 

 

つながり消失 支援員が防ぐ

人口減少による損失の1つとして、「コミュニティの消失」がある。
南牧村には15の行政区があり、その中にさらに、「近所の仲間」といった小さな共同体が存在する。「南牧村のような農村は、この小さなコミュニティによる助け合いが重要です」(長谷川村長)。その維持のために開始したのが、区長を「コミュニティ支援員」に任命することだ。コミュニティ支援員の活動は、地域の人々への声掛けなどを中心に、映画鑑賞会や集団旅行など、独自のイベントを企画。それらによって、人々のつながりを維持することが目的だ。活動に要する費用は基本的には村が負担する。

 

 

長谷川村長は、「実際、数年前の豪雪により集落の一部が孤立。連絡が完全に途絶えたことがありました。その際には、コミュニティ支援員が自主的に住民の様子を把握し支援につなげたことを、行政としても非常に心強く感じました」と語る。

 

 

若手呼び込む空き家の活用

 

高齢者の流出を防いだ上で、若者世代を呼び込む施策を実施。空き家を活用したUターン、移住促進に乗り出す。空き家活用は住居費を低く抑えられることが売りだ。とはいえ、空き家は全国的課題。周囲の自治体との低価格競争に陥ったという。

 

 

通りに面する民家にも空き家が存在している

 

 

そこで、空き家に付加価値をもたせる方針に舵を切る。「例えば、『山村レストランをやりたい』という人がいたとします。実現するには厨房設備など初期投資が大きな問題となります。そこで、行政があらかじめレストラン開業が可能な状態に空き家を整えておくことにしました」(長谷川村長)

 

 

高齢化率、50%台目標に

 

コロナ禍の「都市部を離れたい」というニーズや、テレワーク普及の流れが追い風となり、今年は新たに、27歳の夫婦が村の一員に加わった。
「南牧村まち・ひと・しごと創生総合戦略」を振り返り長谷川村長は、「年間2.5世帯、7〜8人の転入を目指した計画でした。現状ではその目標を単年度でも、トータルでも上回っています」と、おおむね成功であったと総括した。
「若手世代が少しずつ増えることによって、10年後には高齢化率は50%台になると考えています」(長谷川村長)

 

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう