半身麻痺の利用者のトイレ介助で、ふらつき転倒事故が起こりました。幸いケガはなく、介護職員は事故報告書の再発防止策の欄に「ふらついても支えられるように注意深く移乗する」と書いて提出しました。施設長は介護職員の事故報告をもとに、再発防止策を説明し家族は納得しました。ところが、翌週に再びトイレ介助中に転倒、今度は骨折させてしまいました。謝罪して説明しようとする管理者に対して、家族は「いい加減な説明ばかりで信用できない!」と怒り心頭です。なぜこのように同じ事故が繰り返されるのでしょうか?
■なぜすぐに事故が再発したのか?
どの施設でもヒヤリハット活動は一生懸命に取り組んでいますが、事故が発生した時の再発防止策の検討はほとんど行われていません。では、なぜ施設では事故発生時の再発防止策検討(事故カンファレンス)に消極的なのでしょうか?ある若い女性スタッフに尋ねてみると次のような大変興味深い答えが返ってきて驚きました。
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日頃は事故が起きないように見守りなど緊張してピリピリしているけれど、事故が起きた瞬間にフッと緊張が途切れて、「あーあ、事故起きちゃった。また怒られる。参ったなあ」っていう感じなんです。で、主任も言うんです。「ま、起きたことはクヨクヨしても仕方ないから、また注意して事故を防ごう」って。事故防止活動が失敗に終わりました、って感じ。あとは、相談員が家族対応で敗戦処理に奔走ってわけ・・・。
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もちろん、未然に事故を防ぐことの重要性は言うまでもありません。しかし、事故防止活動が事故の発生で終わっては困ります。「事故が起きた時から事故防止活動が始まる」と考え方を変えなければなりません。では、事故が発生したらどのようにして再発防止策を検討したら良いでしょうか?
■事故報告書に再発防止策は書けない
まず事故報告の手順を変えなければなりません。事故報告書はすぐに書いて提出しなければならないのに、事故原因と再発防止策の欄があります。事故直後に事故原因の分析や再発防止策の検討ができる訳がありません。
介護職員に対しては、5日程度の時間を与えて事故カンファレンスを行って報告するように指示し、その進め方も教えなければなりません。ではどのような手順で事故カンファレンスに取り組んだら良いのでしょうか?
■事故カンファレンスの取り組み方法
事故の原因は目に見える直接の原因だけでなく、様々な要因が関係しています。
これらを、
(1)利用者側の原因
(2)介護職側の原因
(3)介助環境の原因に分けてたくさん出し合う
というのが原因分析のコツです
例えば、移乗介助中に起きた転倒事故の分析は
(1)では、利用者はなぜふらついたのか。
(2)では、介助方法は適切だったのか。
(3)では、車椅子は安全だったか
と考えます。
次に再発防止策も3種類の対策を検討します。
1つ目は「未然防止策」です。これは事故の根本原因を除去する対策で一番効果の高い対策です。例えば血圧降下剤が原因でふらついて転倒する利用者の服薬を見直して、ふらつきを改善する対策です。
2つ目は「直前防止策」です。これはその場その場で危険に対処する対策で、あまり効果は高くありません。例えば転倒事故の防止のために「見守りを強化する」という対策です。
3つ目は損害軽減策です。これは事故が起きてもケガをさせない対策です。例えば大腿骨部分にパットが入ったヒッププロテクターパンツを履いて、転倒した時に骨折を防ぐという対策です。
このように、どのような方法で再発防止のための事故カンファレンスを進めたらよいか、みんなで工夫しなければなりません。ヒヤリハットばかりが事故防止活動ではありません。事故が起きた時の事故カンファレンスから事故防止活動が始まるのです。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。