北京市民政局長は先日、会見を開き、今後の高齢者政策について発表した。その内容は主に次のようなものだ。
【大型施設の建設控え】
北京市内では今後、大型介護施設の新規建設を控える方針。大型施設を建設する場合、北京市に近い天津市や河北省などを対象エリアとしてあげた。これは市内の地価が高騰しており、経済性が見込めないためである。
市内に住む高齢者が周辺地域の施設に入居する場合は、これまでの一連の優遇政策はそのまま継続される。
【生活保護者の支援】
生活保護を受けている要介護高齢者を対象に、補助金制度を設ける。現金給付ではなく、現物給付で介護施設への入居支援を行う。まずは一部の区・県で試験的に実施し、年末までに市内全域で実施する計画。
【在宅介護の強化】
在宅介護をさらに強化するため、現在104ヵ所ある介護センター(地域密着型多機能介護施設/ベッド数50~100床)を、さらに40~60ヵ所増やす。
また、各地域において高齢者の食事支援をさらに進める。民間の飲食会社に高齢者食堂や配食の運営を委託する助成金事業を通じて、独居高齢者や要介護高齢者の食事問題の解決を目指す。
【人材育成】
これまで大学や看護専門学校などにおいて、「老年学」「看護」といった専門学部はあるものの、介護現場で働くことを前提とした教育機関がなかった。そのため、介護人材を育成する専門の教育機関を設立する。北京はほぼ毎年ベッド数1万床を整備してきたが、介護人材が不足しており、専門性が低いことが課題である。そのため、介護人材の育成が急務となっている。
【医療・介護の連携】
全ての介護施設に医療機関を併設させる。医師・看護師が24時間常駐する医務室を全施設に設置するほか、近隣の医療機関との連携構築を義務付ける。急病など、施設の医務室では対応できない時に、優先的に受診できる仕組みを作る。
【「北京通カード」の配布】
高齢者向け多目的ICカード「北京通カード」の配布を年末までに完了させる。北京通カードとは、高齢者が映画館や博物館などの商業施設、交通機関などで割引制度のさまざまなサポートが受けられ、年金受給の銀行カードとしても利用できるもの。高齢者本人に限らず、家族も利用でき、お年寄りを大切にしようとするのが目的である。
北京市は高齢者人口率が24%と、上海市に次いで高い。北京市にあるベッド12万床のうち、空室率は4割となっている。今回の新しい政策発表は現状を改善する目的であり全国へ今後の方向性を示すものとなっている。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。