パートナーシップの社会構造「生産的な仕事」の再定義

 

11月上旬、朝日新聞で女性の自殺者数増加の記事を目にした。2020年の女性の自殺者数は7 0 2 6人、前年より15.4%増えている。

 

全国の自殺者数が、11年ぶりに増加に転じ、男性が微減だった一方で女性が大きく増えている。特に働く女性が苦境に立たされている実態を、21年版の自殺対策白書が明らかにした。コロナ禍における総務省の労働力調査によると、働く女性の53.7%(今年9月)は非正規雇用で、コロナ禍においてパート先のシフト減、低い時給で困窮する人を中心に厳しい環境に置かれている。当初から政府が休業補償を「非正社員も対象内」と強調していれば、この事態は防げていただろう。

 

 

わたくしはこの記事を見て、「ケアリング・エコノミクス」という言葉を思い出していた。そして周りを見渡してみると、心が壊れた人たちがたくさんいる。

 

現在の経済論の多くに忘れられてきた本来の経済システムを、人間の福祉と人間の幸福を促進するべきものだという根本的な前提から、女性社会科学者リーアン・アイスラー氏が、著書『ゼロから考える経済学』(2009年)のなかで新たなビジョンを提起した。

 

従来の経済モデルの狭い帯域ではなく、資本主義、社会主義、共産主義を超えた「ケアリング・エコノミクス」の創造である。社会が病み、癒しを切望するこの現状に、人類再生、経済の再構築を促す警告である。

 

アイスラー氏が提案する「新しい経済地図」には、6つの分野がある。中核分野:家事経済。第2分野:無報酬の地域(コミュニティ)経済、第3分野:市場経済、第4 分野: 不法経済、第5分野:政府経済、第6分野:自然経済。家庭は、従来型の経済分析のような単なる消費の単位ではなく、生産の単位であると指摘する。質の高い人的資源を生み出すために必要な「思いやること」と「世話すること」に対して、関心が払われてこなかった。そのことが、経済モデルと現実との乖離を生んでいる。

 

評価価値という観点では、日々のニーズである介護の仕事も同様だ。ビジネスにおいて、思いやったり世話をしたりする仕事に、経済的価値が与えられる機会は稀である。
家庭や地域社会の非貨幣経済の中で、家庭で介護をする女性、増えつつある男性に対しても、経済活動に参加していないとみなされる。これらは、倫理の問題ではない。むしろ自己の利益を追求する経済人の、利己的であることは合理的なのだという解釈、支配・被支配の関係が背景にある。それが永久に不変であるという暗黙のうちに形成されたシステムが前提となって、思いやることそのものの価値を低めている。そして、このトップダウンのシステムが、女性を「第二の性」と貶め、前述のような目を覆うばかりの現実を作り出す。

 

アイスラー氏は言う。われわれは、「進化の岐路に立っている」そして、未来を望む世界を描くのも、「私たちの意のまま」だと。

 

今日を予言していたかのように、2020年から世界が一変している。人間関係の基本を、助け合い、相互に尊重する「パートナーシップ」に据える、新たな経済システムを創造するビジョンに、心が震えたのは、わたくしだけだろうか。今一度、この「パートナーシップ」の世界観を共有したい。

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

 

 

 

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