「在宅死率」が最も高い横須賀市

 

2020年の人口動態調査によると、病院と診療所を合わせた医療施設での死者比率は69.9%となり、遂に70%を割った。病院だけでは68.3%である。70年前に12%台だった医療施設死は、「病院信仰」の高まりで増加、05年には82%に達した。在宅医療が進む海外ではオランダが30%を割っており、欧州諸国は50%前後が多い。

 

一方、自宅死はこの20年ほど13%前後だったが、昨年は15.7%に伸びた。コロナ禍での面会制限のため入院の敬遠や早期退院で自宅死が高まったようだ。

そして特別養護老人ホームや有料老人ホームなど老人ホームでの死亡はこの20年で大きく伸びた。00年の1.9%20年には9.2%となった。介護保険制度の浸透で入居への抵抗感が薄れニーズが広がった。競争により有料老人ホームの入居費低廉化も進んだ。特養などと同様に「看取り加算」が報酬に加わり、事業者も前向きになった。

 

 

特養の個室化が進んで身の回り品を持ち込め、施設が「第二の自宅」になりつつある。老人ホーム死の増加が病院死の漸減をけん引した。「最期は自宅で」と、70%近い国民が各種のアンケート調査で答えている。老人ホームが「第二の自宅」であれば、自宅死と老人ホーム死を合わせて「在宅死」とみなしていいだろう。

 

人口動態調査から人口10万人以上の全285市区で「在宅死」率を算出すると、最も高いのは40.2%の神奈川県横須賀市と判明した。全国平均の24.9%を大きく上回り、6年間連続1位である。

 

厚生労働省令和2年人口動態統計から算出
(区はすべて東京都、数字は%)

 

同市でも大きく伸びているのは老人ホーム死である。05年に108人だったのが20年には784人と7倍だ。有料老人ホームの新設が相次ぎ、19年までの5年間に定員数が1152人も増えた。特養でも「本人や家族が最期までここにいたい。病院に送らないで」という要望が増えてきたという。

 

「在宅重視」「病院から在宅へ」「介護サービスを受けながら自宅や地域で暮らし続ける」――――。介護保険の施行時に国が唱え、その後、「地域包括ケア」として打ち出した方向性だ。この考え方を実践し、全国一の数値で示したのが横須賀市。同市が主導し、医療者たちと連携してきた「在宅療養」への力強い歩みが市民意識を変えつつある。

同市は人口40万人弱。高齢化率は32%で全国平均より3ポイント、神奈川県平均より6ポイントも高い。その危機感が同市の高齢者施策の背景にある。2010年に市立病院を指定管理者制度に移行した際、地域医療推進課を新設し、真正面から医療改革に乗り出した。

 

まず着手したのは「在宅療養連携会議」の設置であった。医師会をはじめ訪問看護、地域包括支援センターやケアマネジャー、訪問介護の連絡会などが参加した。その後、横須賀共済病院、市民病院など大手病院も加わる。

病院と診療所の役割分担や連携法、退院後の自宅や施設での療養の在り方などを話し合い、3年後には市民向けの在宅療養ガイドブック「最期までおうちで暮らそう」につなげる。画期的な提言をそのまま冊子名とした。

 

全病院の院長会議も定期的に持たれ、病院スタッフが訪問診療医の講演を聞く集まりも13年から始めた。専門職が個人として参加する「多職種合同研修会」も同市が9年前に着手。現場の専門職が垣根を超えて話し合う。

市民便利帳にも、在宅医療を手掛ける診療所を明記している。こうしたきめ細かな重層的な活動が高率の在宅死を生み出しているようだ。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

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