社会福祉法人世田谷区社会福祉事業団
特別養護老人ホーム3施設、デイサービス6施設、地域包括支援センター6ヵ所などを運営する社会福祉法人世田谷区社会福祉事業団(東京都世田谷区)は、本部の訪問サービス課にも管理栄養士を1名配置。訪問看護・介護のスタッフを食、栄養面で支援する特徴的な体制を取り、利用者のQOL、スタッフの意識の向上につなげている。
同法人は訪問サービス部門に管理栄養士を配置し、5つの訪問看護ステーション、2つの訪問介護事業所のスタッフから利用者に関して相談を受け、同行訪問も行う体制を採っている。相談はここ数年間で、前者が約200件、後者が約40件ほどとなっている。「そのうち、同行するケースは約7割」と管理栄養士の竹内洋子氏。

管理栄養士によるヘルパー向け調理実習の様子(撮影:コロナ禍前)
法人の訪問看護では、介護保険法施行前は世田谷区の管理栄養士の訪問指導、施行後は居宅療養管理指導を行う管理栄養士団体を利用するなど、食・栄養面での支援に力を入れてきた。「最後まで口から食べることを支援する」をスローガンに、2011年からは現在の管理栄養士を配する形を採っている。
「訪問看護・介護のサービス提供において、管理栄養士によるサポートの利点は大きいと感じています。現在の取り組みはケアマネジャーにも周知され、紹介へとつながっています」と佐々木静枝看護師特別参与。
例えば、癌で終末期の90代の男性のケースでは、家族が作る料理が本人の口に合わないこともあり、食事が摂れていなかった。
相談を受けた竹内氏は、利用者本人の「肉が食べたい」という要望に応え、何ならば提供できるか、家族と一緒に考えて調理すると、利用者は「ホテルの味のよう」と喜んだという。利用者は、それからまもなく亡くなったが、「家族も、おいしいと言ってもらえたことに嬉しそうにしていた。食の楽しみを最後まで叶えられたかな、と思います」と竹内氏。
情報共有の場にも
新型コロナで外出を控え、デイサービスにも行かなくなった80代の女性の場合、甘い物が好きなこともあり体重が増えてしまった。それにより、人工膝関節置換術を受けた膝に負担がかかり、痛みが出てしまったという。
訪問看護師の大原昭江氏が食事面での相談を受け、竹内氏が同行した。同居するのは息子で、食事の準備のイメージがわかないという。そこで、使いやすいカット済み野菜や、食物繊維が豊富な食品などの使用を提案、家族でこれに沿った、食事作りを実行中だという。「食への意識が高くない方を私たちがサポートする。管理栄養士との連携によって、正しい知識も得られます」と大原氏は語る。
退院直後の高次脳機能障害がある男性のケースでは、胃ろうと併用するミキサー粥が不評だった。サービス提供責任者の森田恵子氏は、竹内氏に教えてもらい、酵素とゲル化剤が一緒になった嚥下調整食品を使用。「おいしいお粥をとヘルパーと試作を重ねて提供し、患者に喜ばれたのが印象に残る」という。
また、生活援助に入った利用者宅で、息子が3食同じ食事を出しているのを見かね、竹内氏に相談。「介護者が作れる範囲で、自尊心も傷つけない提案をしてもらえ、状態が改善しました」と森田氏。「専門職から話すことが、利用者やその家族に納得していただきやすい状況を作る」と佐々木特別参与は話す。
法人では管理栄養士によるヘルパー向け調理実習も実施してきた。「時短調理」「低栄養予防」など各回、テーマを設定し、それに沿ってグループごとに違う食材を調理する。ヘルパー同士の情報共有の場としても、好評を得てきたという(コロナ禍の現在は休止中)。