社会状況に合わせた対応を
2021年10月からの感染者の急速な減少で感染対策が緩和され、経済活動・社会活動も活発化してまいりました。当面は第6波への懸念から、性急に緩和することはできませんが、その後終息に向かう過程で、施設ではいつどの対策をどれくらい緩和したら良いのでしょうか?また、終息した際にも「ワクチン未接種の利用者(職員)への対応」や「面会でのワクチンパスポートの適用」などの新たな課題も出てきます。今回は今後の終息に向けた施設の感染対策について考えます。
■どのように終息するのか?
施設の感染症対策は、社会や周辺地域の感染状況に応じて絶えず強化・緩和を繰り返します。今後、終息に向かう終息移行期では段階的に感染対策を緩和し、終息期においては感染標準予防策に戻ることになります。ですから、社会の感染状況を予測し、これに応じた感染対策緩和策を考えなければなりません。
では、今後社会の感染状況はどのように推移するのでしょうか?どのような感染状況になれば、終息と言えるのでしょうか?
感染終息とは2つの状況が考えられます。天然痘のようにウイルスを消滅させ感染症を根絶することと、インフルエンザのようにウイルスと共存しながら人の命を守る方法を見出すことです。当然新型コロナ感染症の終息は後者となります。
つまり、終息移行期とは感染者はどんどん増えるが重傷者も死亡者も減少する時期であり、終息期とはワクチンと治療薬によってインフルエンザと同程度の致死率になる状況を意味します。現在のヨーロッパの状況が終息移行期であり、現実は急激な緩和策で大きなリバウンドになってしまいましたが、完全終息に向けたプロセスなのです。
■BCPは活用可能か?
さて、現在日本は世界中が驚くほどの劇的な感染者の減少で、感染を封じ込めている状況にありますが、今後は〝感染者が増えるが重傷者も死亡者も増えない〟という終息移行期に入ります。時期的には、3回目ワクチンの接種と経口治療薬が普及する4月頃からではないかと推測できます。
では、今後訪れる終息移行期と終息期には、施設はどのように対策を緩和していけば良いのでしょうか?BCPを活用する方法を考えてみましょう。
2021年4月の介護保険制度の改正でその作成が義務付けられた、感染対策の事業継続計画(BCP)では、社会の感染状況に応じて施設の感染対策を段階的に強化・緩和することが求められます。具体的には「①国内感染発生期②地域感染発生期③施設内感染発生期」と区分して感染対策を強化し、最後は終息期として感染拡大前の感染標準予防策に戻ります。
つまり、周囲の感染拡大状況に応じて感染対策の強弱を調整するのです。具体的には感染拡大期の段階的対策強化の手順を、逆戻しして段階的に緩和し元通りの状況に戻すという方法です。
実はこれには問題があります。BCPは周辺地域の感染者数の状況に応じて対策を強化・緩和するので、感染者数が増える終息移行期には逆に感染対策を強化しなければならなくなってしまうからです。
■各段階の具体的緩和策を探る
BCPが使えないと、終息移行期と終息期のそれぞれの社会状況を想定して、施設の感染対策課題を洗い出し、一つひとつ答えを見つけていく方法しかありません。
例えば、終息移行期には、町の人がマスクを外し始め感染者が増加し始めます。職員がウイルスを施設内に持ち込むリスクは高くなりますが、一方で職員も利用者も大半がワクチンを接種していますから、感染しても重症化や死亡のリスクは低くなります。
施設内クラスターはまず発生しませんし、地域の病床ひっ迫もありませんから、厳重なウイルス侵入防止対策は意味がなくなります。
このように、今まで講じてきた過剰とも思える感染対策を段階的に緩和するのは、意外と面倒な作業なのです。
次回は具体的な緩和策を検討してみましょう。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。