徹底的に稼働率(売上)を上げる
本紙の購読者は、高齢者住宅、特養などの入所施設、デイサービスや小多機などの通所施設を運営する事業者ですが、訪問介護事業者も増えているように思います。施設以上に収支改善に悩んでいるように思います。
そこで今回は、訪問介護事業の売上げアップ法を解説したいと思います。
①登録ヘルパーからの脱却
まず、訪問介護事業者からの相談で最も多いのが「ヘルパーを採用できない」というものです。ここ数年、有効求人倍率は15倍前後と高い水準です。
15社で1人の求職者を取り合うのですから〝採れなくて当然〞です。しかしこの事業の売上は、ヘルパーの人数、稼働時間に比例します。なにが何でも採用しなくてはいけません。
そこでまず見直していただきたいのは「登録ヘルパー」を中心にした運営方法です。登録ヘルパーは、サービスを提供する時間(移動時間含む)だけ給料が発生しますから、人件費(コスト)を変動費化できます。事業者にとってはとても都合が良い方法です。
しかし、特に身体介護では、施設業務以上のスキルと経験が求められます。時給は良いですが、1日単位ではそれほど稼ぐことができないため、求職者からも敬遠されつつあります。
もし今、採用、売上減に悩んでいるのであれば、登録ヘルパーから脱却し、正社員中心の運営への移行を検討していただきたいのです。
②給料水準・研修体制の引き上げ
正社員として採用するにしても、経験者を採用するのは大変です。無資格・未経験の方を採用し、資格取得からサポートするのが良いでしょう。
しかし、施設と違って訪問先では、他のスタッフに頼ることができません。単独でのサービス提供となりますから、未経験者にとってはとてもハードルの高い職種です。
そのハードルを超えるためには「他社より高い給与水準」と「研修体制」の2点が不可欠。
まずは処遇改善加算、特定処遇改善加算をうまく利用して、給与水準を向上することを検討しましょう。また、動画を使った教育システムを導入するなど、研修体制を強化し、正社員の雇用を促進していきましょう。
③提案力の向上
給与水準を上げるということは、それだけ利用者からの依頼が多くなければいけません。
ポイントは2点あります。
1つ目は、ヘルパー人数を増やして徐々に規模を拡大することです。私の経験だと、その地域で規模の大きな事業者に依頼が集中する傾向にあります。ですから、地域最大規模の事業者を目指すのです。
2つ目は、1日あたりの訪問件数を増やすことです。しかし、利用者からの依頼は「朝帯(あさおび)」など、特定の時間に集中します。そのような事情から、登録ヘルパー制度は、ニーズが集中する時間にヘルパーを増やすことができるためとても良いのですが、社員ではそうはいきません。1日を通して業務が平均的に埋まるように、分散して受注する必要があります。
それを可能にするのが「提案力」です。利用者、ケアマネジャーの希望に添えなかった場合に、空いた時間で代替案を提案できるかが〝カギ〞となります。
④サポート体制の強化
サービス提供責任者(サ責)が事務所に座っていては、コストにしかなりません。なるべくサ責の事務作業を減らして、訪問件数を増やしたいところです。
また、経験値の低いヘルパーが、1日で何件もの利用者宅に訪問して活躍するためには、充分なサポートが必要です。
そのためには「ICT化」と「本部サポートの強化」が欠かせません。具体的には、ICT化と本部事務の強化により、シフト調整、訪問先での記録、実績管理等の業務を効率化すること。そして、利用者や居宅ケアマネからの連絡を、本部で受けられる体制をつくることです。
また、基本的なことであるため4点には含めませんでしたが、単価の高い〝身体介護〞の割合を高くすることは言うまでもありません。
そのために、掃除、洗濯、調理などの日常生活の援助の際には、身体介護として区分される「自立生活支援のための見守り的援助」として算定できないか(自立支援、ADL向上の観点から、利用者と一緒に手助けしながらできないか)を、担当ケアマネジャーと検討しましょう。
糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。