<新たな包括ケアの取組み ~多世代コミュニティ・共生社会を考える~

連載第40回 第二次有料老人ホーム建設ブームにおけるビジネス上の問題点④>

 

 

我が国の医療や福祉の制度では、民間の有料老人ホームと医療機関・福祉施設による、連続性ある関係の構築は容易ではありませんでした。

特別養護老人ホームなどの福祉施設は、市町村による行政介入が不可避であり、有料老人ホームのニーズより地域全体の福祉を優先させる必要がありました。

 

 

たとえば特別養護老人ホームへの入居措置は、行政が入居希望者のウェイティングリストから、福祉行政としての優先順序に基づいて決定するもので、「同一経営者の有料老人ホームの入居者だから特別に優先される」ことは原則ありませんでした。

また、医療機関の理事長が経営する有料老人ホームの入居者に入院が必要になった場合も、医療機関が健保指定機関である限り、一般の健保被保険者と公平に扱わなければならず、基本的には福祉と同じでした。

医療制度、福祉制度、民間ビジネスという制度上の壁が存在していました。

 

医療機関の経営者や福祉施設の運営者が有料老人ホームを経営しているケースも少なからずある一方で、縦割りの制度上の壁があるため、米国のCCRCのように身体の状況に応じて施設を変えていくようなスムーズな関係を形成することは難しいと思われました。

 

当時の有料老人ホームでは、「自分の生活している地域をあまり離れたくなく、開設主体の経営状況と、医療介護への対応が一番重要と考える」高齢者の「本当のニーズ」を踏まえた展開や営業活動はあまり行われていませんでした。

 

建物や共有部分の豪華さ、各種の娯楽室やフィットネスルーム、礼拝堂等のアメニティの充実、各種イベントやホーム内趣味の活動の強調等について、モデルルームの開設、地域への新聞織り込みチラシ、地域の広告看板、高齢者関連雑誌への広告掲載などでPRするばかり。特別の販売手法が開発されておらず、通常のマンション販売と同じような営業活動でした。

 

その中で、女性や高齢者問題のセミナーや関連イベントの開催を地域で行い、入居予定者の意見を取り入れたコーポラティブの有料老人ホームや、公的な団体が建設する有料老人ホームの人気は高いものでした。

 

 

高齢者のニーズは「ホームの経営が堅実であること」「医療介護に安心できること」「職員も含め、ホームの人間関係がうまくいくこと」にあり、安心と居心地のよさという普通のことを求めているわけで、それに対する丁寧な対応や説明が必要でした。

 

 

 

コミュニティネット 代表取締役 須藤康夫氏

1952年東京生まれ。あいおいニッセイ同和損害保険にて医療や介護の保険開発や新規事業に従事し、最後の10年間はMS&AD基礎研究所の社長として過ごす。研究論文や編集刊行物に「有料老人ホームの歴史と展望」、「米国の医療保険」、「オランダの医療保険」、「介護施設のBCP」、「病院のBCP」など。研究所時代に東日本大震災があり、津波から要介護者や障がい者を救うための特殊担架ボートを開発。

 

 

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