徹底的に稼働率を上げる
3回連続で特養、通所、訪問介護の稼働率UPの方法をお伝えしてきました。最後は「小規模多機能型居宅介護事業( 以下「小多機」)」です。
小多機は、利用者の暮らし方や体調、環境の変化に応じて「通い」、「泊まり」、「訪問」の3つのサービスを包括支払いで利用することができます。
多くが「利用者にとって、とても利便性の高いサービスだ」と言います。また、基本的に中学校区に1事業所と決められているので、競合が限定される点も他事業より有利です。しかし実態は、4割以上が赤字と言われています。これらの優位性がなかなか発揮しづらく、稼働率の低迷に悩んでいる事業所が多いのも事実です。
課題は2点あります。1点目は、ケアマネが変更になること。2点目は、小多機を利用しなくとも、別々のデイ、ショート、訪問介護を組み合わせれば、なんとか対応できてしまうという点です。
裏を返せば、そうした2つのハードルを超えてでも〝小多機を利用すべき〞という方を、しっかりと受け入れていく体制づくりが、稼働率UPにつながります。
◯重度者対応
まず大事なのが「通所」「訪問」「ショート」のうちの2つ以上を必要とし、且つ、包括支払いにした方がリーズナブルという重度者に、しっかりと対応できる体制をつくることです。〝重度〞を具体的に言うと「認知症」「要介護3〜5」「医療的ケア」ということになるでしょう。
特に、病院からの退院直後の在宅生活を支援することは、小多機の重要な役割となります。こうした重度者をケアできるだけの環境づくり、人材の養成、医療機関との連携は、稼働率アップには不可欠と言えます。
◯法人内ケアマネと連携
法人内で、別に居宅を運営しているのであれば、在籍するケアマネとの連携は有効です。ケアマネが多数在籍するある法人では、毎月、居宅と包括管理者による「連携会議」を実施。ケアマネは、担当する利用者の中から小多機への移行を検討すべき方を抽出し、2者でメリット、デメリットを共有して、利用者に提案しています。
ニーズや意向に沿うのが基本ですが、それでも小多機への移行者が増えたことで、安定的に利用者を確保しています。
◯事例集を作成
小多機が制度化されたのは、平成18年のことですが、いまだに小多機の〝使い方〞をよく知らないケアマネ、ソーシャルワーカーがたくさんいるのが実態です。
そこで、ある事業者では「利用事例集」を作成。週に1度、通所サービスを利用するケースから、退院直後で、ショートステイを上限の30日間使っているケースまで、どのような方が、どのように過ごしているかをまとめました。
冊子には、基本的な内容だけでなく「銀行付添」「定期受診同行」から「買い物同行」「ワクチン接種付添」までしているケースも記載したため「こんなことまでやってくれるのは〝はじめて知った〞」という方が多数おられました。
◯居宅、病院訪問
居宅のケアマネや病院のソーシャルワーカーに対して、営業目的で訪問します。〝営業〞といっても、いわゆる〝お願い営業〞をしても効果はありません。〝押し売り〞が過ぎると、かえって嫌がられるだけです。
そうではなく、前述のように〝使い方〞の事例を伝えたり、紹介していただいた方がいかに過ごしているかを報告します。すると「どんな方を紹介すべきか」がわかるため、紹介が促進されます。
◯訪問サービスの省力化
小多機がメリットの大きいサービス類型であることがおわかりいただけたと思います。しかし、細やかなニーズに応えようとすればするほど、現場の負担は大きくなります。
特に、自宅への訪問頻度が増えたり、訪問での随時対応が多くなると、負担感は一気に大きくなります。逆に、訪問回数を減らし過ぎて「訪問体制加算」を算定できないのも痛手です。
そこは、施設ケアマネの力の見せ所です。利用者のニーズに最大限応えながら、且つ、適正な人員で過度な負担なく運営ができるようにプランニングしていくのです。小多機は開設エリアが分かれているため、競合することが少ない業態です。
ぜひ同業者とも情報交換しながら、バランスのとれたプランを作成するようにしていきましょう。
糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。