<連載第125回 数量指示賃貸借>

 

居住用建物について賃貸借契約を締結し、実際に居住を開始したところ、契約書に記載された面積と比較し、実際の部屋が狭いということが明らかになった場合に、賃借人は賃貸人に対し、契約書の記載と比較して部屋が狭かった程度に応じて賃料の減額を請求することが認められるのでしょうか。

 

この点、改正前民法においては、売買契約について、契約によって数量を確保することが示されたときは、売買対象物に数量の不足があれば不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる旨の定めがあり(改正前民法565条、563条)、賃貸借契約にもこの規定が準用されていました(同法559条本文)。

 

 

裁判例上、建物賃貸借の場合、⑴目的物の実際に有する面積を確保するために、⑵その一定の面積があることを賃貸人が契約において表示し、⑶かつ、この面積を基礎として賃料額が定められたものである場合は、数量指示賃貸借契約となると考えられています(東京地判平成27年11月2日)。

 

建物賃貸借契約が数量指示賃貸借であるとして、賃借人が賃貸人に対し賃料の減額を請求している裁判例について、これまで公表された裁判例では、ほとんどの場合に数量指示賃貸借ではないと判断されています。

 

減額認める事例は稀

 

賃貸借契約を締結する際、契約書に貸室の面積が記載されていることは多いですが、これは物件の特定という意味しかなく、契約書に示された面積を確保することが目的であったり、面積を基礎として賃料額が定められたものであったりするとは言えない場合が多いです。

 

したがって、冒頭の問題提起に対する答えとしては、賃借人の賃料減額請求は原則として認められないものと考えられます。仮に、賃貸借契約を締結する際に、「1㎡あたり○円」といった記載があった場合には、その賃貸借契約が目的物の実際に有する面積を確保するための契約であり、かつ、面積を基礎として賃料額が定められた契約であるとして賃借人の請求が認められる可能性がありますが、通常そのような記載がある事例は少ないでしょう。

 

 

なお、改正により、数量指示賃貸借契約としてこれまで論じられてきていた問題は、より単純に数量の契約不適合の問題として取り扱われることになりました(新民法563条、559条本文)。

 

弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士

家永 勲氏

 

【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。

 

 

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