前のめり気味の日経新聞
2021年12月21日の日本経済新聞が1面のトップで「1人で4人介護可能」「生産性向上へ規制緩和 政府検討」と大きく報じた。有料老人ホームの職員配置基準を3対1から4対1に変え、次いで特別養護老人ホーム(特養)など全施設に適用するという。
ITの活用で介護現場の生産性を高めれば配置基準を緩められる、と強調する。狙いは「財政を圧迫する社会保障費の膨張を抑え」ることにある。
驚いたのは特養の全国団体、全国老人福祉施設協議会。すぐにホームページで「厚労省に問い合わせたら誤報とのことです」と載せ、その後「政府の審議会でSOMPOケアが提案した案」と書き換えた。
確かに、記事の出所は前日に開かれた内閣府の規制改革推進会議の第7回医療・介護ワーキンググループ。出席したSOMPOケアが説明した資料の中に「4対1」の記述がある。記事では「内閣府が改革を提起した」とあるのは勇み足のよう。
大ニュースなのに他メディアの追随はなかった。日経は売りもののコラム「中外時評」で、12月8日に論説委員がITを活用した介護施設を取材し「ロボットに冷たい介護報酬」という記事を掲載。「ロボットを職員とみなす発想が必要」と説き、生産性の効用を謳う。この社論の延長線上に「4対1」がはまる。
コロナ禍で専用病床の確保がままならない失態が浮上した。医療機関に対する政府と自治体の権限強化を盛り込んだ感染症法の改正に乗り出そうとした。だが、「通常国会に提出せず」と伝えたのは8日の読売新聞。日経新聞が9日に追った。
「権利の制限」が参院選の焦点となることを避けたと解説する。直前まで「公的病院と協定締結へ」「民間病院に協定協議に義務付け」と報じてきたのに。理由を深堀して欲しかった。
今年の正月企画には高齢者ケア関連の発信は少なかったが、読売新聞が頑張った。年回連載の「挑む」を4日から開始。第1回は「ばあちゃん食堂」。福岡県うきは市で団塊世代が営む会社「うきはの宝」を取り上げ、10日の3回目は、特養内のラジオスタジオから「認知症3人組」の愉快な出演光景を描く。
また、12月27日に成年後見制度の法人後見に焦点を当て、11日には「コロナ禍 高齢者虐待深刻」「家庭内最多1万7281件」との見出しでストレスの実態を掬い上げた。
介護職員の賃上げに伴う保険料の引き上げを「現役世代負担月70円増試算」と報じたのも13日の読売新聞だった。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。