ワクチン打たない職員への対応も
1月10日現在、欧米ではオミクロン株により急速に感染が拡大。わが国でも第6波に突入しつつあります。しかし、感染力は強いが重症化しにくいというオミクロン株は、感染拡大を前提とする終息移行の妨げにはなりません。
最新データで英国は昨年1月のピーク時に比べ、死亡者の割合は10分の1に減っており、順調に終息移行できる状況と言えます。前回に引き続き、今後の社会の感染対策の緩和に対応した施設の感染対策を考えます。
■コロナはどのように終息に向かうか?
社会全体の終息移行に向けては、感染判明時の非入院治療と経口治療薬投与による重症化防止対策が前提となります。
まず、ワクチンの3回目接種と感染時の経口治療薬投与によって、在宅治療が進めば過去のような病床のひっ迫は避けられます。
また、在宅治療で懸念されるのは突然の重症化ですが、全ての感染者のSPO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を常時IT機器で管理し、SPO2低下時に迅速に病院搬送できれば解決します。第6波は終息移行に向けた大きなステップと言えるのです。
■施設内の感染対策の緩和策
第6波の感染拡大で重症化も死亡率も低く抑えられれば、経口治療薬の導入と共に社会全体の感染対策が緩和されます。いよいよインフルエンザと同等の対応に移行する訳ですが、施設内の対策はどのように緩和して行ったら良いでしょうか?
まず施設の感染対策で最優先にすべきことは、間違った知識によるムダな対策をすぐに止めることです。感染者が発生していない時点で「利用者との会話ではサージカルマスクとフェイスシールドを着用」「陰部洗浄で飛沫が飛ぶ時はゴーグルかフェイスシールドを着用」というような的外れな対策で、現場の職員が疲弊します。
一方で介護職と利用者の顔が触れ合いそうな移乗介助の方法は全く見直されていません。まず飛沫感染対策にシフトした正しい感染対策の上で、必要な感染対策に絞り込んで緩和していかなければなりません。
次に、感染者未発生時の対策を中心に緩和し、職員自身の感染予防策、ウイルス侵入防止策、接触感染防止策(環境消毒)を必要最低限とします。職員感染時の利用者への感染防止策は、ワクチン未接種の利用者のみ行います。
このような観点で各対策を検討すると、かなり対策の負荷を軽減できることがわかります。ぜひ、個々の対策緩和のシミュレーションを行ってみてください。
■感染者の急拡大は施設の脅威に
終息移行期から完全終息期に至っても感染者が地域に溢れるのですから、ワクチン未接種の一部の施設入所者には大きな脅威となります。
弊社が56施設を対象に行った調査では、「ワクチン未接種の利用者に特別な対応はしない」と答えた施設が78%でしたが、利用者の死に直結するリスクですから、何の対策も講じない訳には行きません。
では、ワクチン未接種の利用者には、どのような感染防止対策を講じたら良いでしょうか?次のような対応を検討する必要があります。
►ワクチン未接種利用者だけのユニットで厳重な感染対策を行う
►担当する職員はワクチン3回接種済みの職員とする
►身体介護の際は職員と密接しない特別な介助方法を行う
►感染判明前の重症化に備えて重症化リスクの高い利用者は検温とSPO2測定を毎日行う
■ワクチン打たない主義の職員への対応
最後に、「ワクチンを打てない」ではなく「打たない」という職員の対応について考えます。基本的には利用者に接触しない部署への配置転換、もしくはワクチン未接種利用者への接触禁止という対応になります。
ワクチン接種には自らの感染防止という被害対策と、他者に感染させないという加害対策の2つの意味があります。
障害のある高齢者の生活支援を行うプロとして、加害の可能性を高める行為は欠格事由と言えます。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。