中国政府は在宅の高齢者を支援する事業として、数年前から一部の地域で「家庭養老ベッド」というプロジェクトを試験的に始めた。

家庭養老ベッドとは、余力のある介護施設に周辺の在宅高齢者に訪問介護サービスを提供してもらう制度。上海市の中心地にある黄浦区が行う家庭養老ベッド制度が好評だ。

 

同区に住む80代の夫婦は子どもが遠くに住んでいるため、長年支え合いながら平穏に暮らしてきた。しかし、数年前から奥さんがアルツハイマーを患ってから状況が一変。身の回りの多くのことができなくなり、QOLが大幅に低下。そこで、家庭養老ベッドのサービスを利用した。

 

サービスを提供するのは、夫婦宅の近くにある介護施設。この施設は2種類のサービスを提供する。

一つは「標準メニュー」である。

「家事、身体介助、リハビリ・機能訓練、服薬管理、日中の付き添い、入浴介助など」となっている。基本料金は660元(約12000円)/月で、利用する項目や時間によって、料金が変動する。

もう一つは、利用者の要望に応じるオーダーメイドプラン。
先述の夫婦は後者を選んだ。家事、按摩マッサージ、料理、夜間の付き添い、服薬管理のほか、週に一回の訪問看護を加えたセットサービスを組み立てた。価格は5800元(約10万円)/月。

 

 

午前は、スタッフA(女性)が掃除、食材の買い出し、洗濯、昼ごはんの準備を約2時間で行う。昼食後の昼寝から目覚める頃に、スタッフB(男性)が訪問。夫婦2人の按摩マッサージやリハビリを終えると、夕食準備にとりかかる。
夕食後、夜間担当のスタッフC(男性)が訪問し、食器洗いなどの家事、話し相手、就寝準備などを行う。夜間、数回起きて見守り、トイレ介助を行う。翌朝、スタッフAがまたやってくる。このように24時間のフルサービスとなる。

 

夫婦は持病があるため、看護師が週1回訪問し、バイタル測定と服薬指導をする。病院の付き添いにもオプションで対応する。
このようなケースの場合、多くの高齢者はパートのお手伝いさんに依頼するのが一般的だが、介護の専門知識がないうえ、人件費は高騰する一方だった。

 

黄浦区では2019年から21年末までに約200世帯がサービスを利用している。60歳以上で介護度が3級以上(要介護3に相当)であれば、最初の6ヵ月間は補助金300元(5100円)/月がでる。

 

上海版の介護保険の給付額に限りがある中で、施設介護より在宅の方が経済的であることは明らかだ。専門家は、この試みは一定の市場があるとし、今後さらに拡大していくのではないかとみている。

 

 

 

 

 

王 青氏
日中福祉プランニング代表

中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。

 

 

 

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