新年のスタートに利用者さんからパワーをいただいた話を紹介します。

 

Aさんは105歳で、普段はシルバーカーを使い移動しています。自室から食堂の席までは20mほどですが、疲れた時には途中で椅子に座り休憩を取ります。

Aさんがほっと一休みしているこの光景が私はとても好きで、稲刈りを終えた長閑な風景に座り込んで一休みしているように見え、ほんわかした暖かな気持ちになるんです。そんなAさんを見ていると全てを悟り、悩みなんてないと思っていました。

 

ある時、聞いてみたんです。「なんだかな…。なんて思った時はどうしたらいいのですかね」と。そうしたら「気持ちがきぜわしくて、あれしてこれしてと思うのに気持ちだけ焦り何もできない。その自分にイラついて、なんで前はできたのにできないの…。と悲しくなるの。そんなときは腿の内側を何で、何で、と叩くのよ。それですっきりするの」と。

 

ほう…。105歳になっても自分にイラつくことがあるんだ!私には悟って見えても本人はいくつになっても変わらない気持ちで行動できるししたいと思うからこそイラつくのか。青い私が自分にイラつくのは仕方ないかと悟り、癒される優しい時間でした。

 

笑顔にふれる喜び

 

もう1つはBさんのお話です。

 

Bさんは戦争中に満州から両親・姉と妹の5人で引き上げてきました。

ところが、日本に着くまでの間に父と姉・妹を亡くしました。でも一度も寂しいと思ったことはないとおっしゃいます。その言葉には強がっている様子は全く見えず、静かに起きたことを受け入れている表情でした。

 

次々看送りながら母親が言ったそうです。「寂しいことはない。3人は空の上にいていつも私たちの傍にいるのだから。だから今も私たちは5人家族です。と言われていたので、その母の言葉で不思議と寂しさを感じたことがなかった」と話してくれました。

 

このお話のなかには、戦争の過酷な状況や悲惨窮まる様子が垣間見えます。それでも母親の愛情を一身に受けて愛にあふれた日々を過したからこそ、悲しい話をこのような優しいまなざしで話せるのだと、Bさんのお顔に優しい母親のお顔が重なって見えたような気がしました。

 

本年も利用者さんの笑顔にふれることを喜びとしてスタートします。

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

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