地域密着型を含めれば全国約4.5万ヵ所にのぼるデイサービスは、介護サービスの中でも最も競争が激しい。さらにこの2年は新型コロナによる利用控えなどで経営環境が厳しく、差別化への投資に二の足を踏む経営者は多い。
こうした状況下、独自の教科書を使った「おとなの学校」式介護を取り入れるデイが増えている。その理由をおとなの学校(東京都千代田区)の代表で医師でもある大浦敬子氏に聞いた。

大浦敬子代表
回想法で認知症状も緩和
──「おとなの学校メソッド」とは
大浦 オリジナルの教科書を使った「学校スタイル」のレクリエーションプログラムです。昨年12月時点で、デイを中心に全国500事業所以上・1万2600人がおとなの学校の教科書を使ってプログラムを楽しんでいます。
新型コロナの影響もあってか、特に最近はおとなの学校メソッドを採用する施設が増加しています。
──採用施設が増えている理由は
大浦 おとなの学校メソッドは利用者、スタッフ、そして経営者それぞれにメリットがあります。
利用者は学校形式を非常に楽しんでいます。教科書は国語・算数・理科・社会・音楽・体育などとなっており、内容に回想法を取り入れている点がポイントです。
問題を解くだけではなく、学生時代を思い出して楽しそうに話したり我先に問題に回答したり、施設が活気と笑顔に溢れています。一番前の席が利用者同士で取り合いになる施設もあるくらいです。
また、普段は落ち着きがなかったり不穏になったりしてしまう認知症の利用者も、おとなの学校メソッドによる効果で落ち着いて座って授業を受けています。不穏になるのは今自分がいる空間が理解できないから。でも若いころに通った「学校」はみなさんの記憶に必ずあります。だから安心して授業を聞けるのです。
無資格・未経験者が活躍
──授業は誰がどのように進めるのか
大浦 利用者(生徒)用とは別に先生用の教科書があり、これに沿って進めれば誰でも先生になることができます。ですから、「無資格・未経験」といったスタッフであってもすぐに先生として活躍できるのです。利用者が楽しそうに先生の話を聞いたり、一緒に喜んだり、スタッフのやりがいにも繋がっています。
授業は2〜30名程度の利用者を先生役のスタッフ1名で対応できます。その時間、他のスタッフは別の業務を進められるので、業務改善にも大きく寄与しています。多くの施設では1日に30分、1時限実施するところが多いようです。

オリジナル教科書は月に1回購入。1冊1650円(税別)
──おとなの学校メソッドを導入するにあたってのコストは
大浦 利用者に月に1冊購入していただく教科書代(1650円)のみです。教科書20部につき、先生用の教科書が3部付いています。事業者側の投資がゼロで施設の差別化が図れることが、現在の厳しい経営環境にマッチしているのかもしれません。
おとなの学校メソッドにより利用者満足度が高まることで、ケアマネ・家族からの評判も高まり稼働率が向上します。また、スタッフの満足度も上がり、定着率の向上、さらには採用のフックにもなっています。ある医療法人では、おとなの学校メソッドを採用活動において前面に押し出したところ、採用できた人数が倍増したという事例もあります。
人材難が続く介護業界では、スタッフの離職に備えた採用費などを考慮すると、なかなか攻めの投資はしにくい環境にあります。その点、おとなの学校メソッドであれば、必要な設備は黒板かホワイトボードのみ。ノーリスクで取り組むことができるので、是非一度試して、その効果を実感してもらえればと考えています。