コロナ禍により市民の活動などが低下し、高齢者のフレイルが進むといった課題が生じている。改めて、高齢者を支える「地域の力」の重要性が認識された。
コミュニティのプロデュースを手掛ける一般社団法人まめな(広島県呉市)はこの春より、高齢化の進む瀬戸内の大崎下島久比地区において、生涯現役の実現に向け多世代の相互扶助コミュニティ、高齢者向け技術創出などを目指す「まめなプロジェクト」を本格的に始動する。

学びの場「あいだす」
市民の活力で地域再生
同法人は1月8~16日にかけ、まめなの拠点の見学会を地域住民向けに実施。
参加者は、井戸端会議ができるコミュニティスペースや、観光客や2拠点生活者向けの宿泊施設やコワーキングスペース、まめなの職員が起業した訪問看護事業「ナース&クラフト」の事務所、子どもの遊び、学びの場となる寺子屋施設「あいだす」、図書館などを見て回った。

あいだすの内観
代表理事の更科安春氏は「この寺子屋は子どもから高齢者まで、自分の『好きなこと』をテーマに集まって、学び合える場となります」と、施設の概要を説明していく。内覧会の参加者は更科代表理事の説明に興味深げに耳を傾けた。

地域向けのイベントを実施していく
これらの施設は、木造平屋の有床診療所、空き家となっていた日本家屋などの建物群を譲り受け、リノベーションを行ったもの。
ノスタルジックな外観や内装を活かしつつ、トイレの水洗化など近代化改修を実施。宿泊施設で観光客を呼び込み、地域外からの資金を獲得。それを住民向けの施設や高齢者の雇用、福祉などへと再投資し、地域に「お金の流れ」を生む狙いがある。

宿泊施設
緩やかに見守り
柑橘類の栽培が盛んな久比地区。人口は約500人。約7割の住民は65歳以上の高齢者だ。まめなは、高齢者が活躍できる場を創出し、介護不要で最期まで地域で暮らせるモデルを構築、講演活動などで発信していく。
高齢者が地域で暮らすために見守りも不可欠だ。そこで、看護師や介護士のような専門職が地域住民の一員として暮らしながら、高齢者を見守る仕組みを準備した。
コミュニティスペースで実施される予定の地域食堂では、ナース&クラフトに所属する非番の看護師などが見守りを兼ね、運営に参加する。

まめなプロジェクトから生まれた「ナース&クラフト」
看護師などの専門職にとっても働きやすい環境を整える。ナース&クラフトでは記録をICT化。併せて、フレックス制を導入。子どもがいる場合は寺子屋などが学童保育のような機能を果たす。そうして生じた余裕を技能向上へと充てられる。
商品開発支援も
まめなでは「エルダリーテック」と呼ばれる、高齢者を支援する機器などの開発支援も積極的に行う。
昨年は、ナース&クラフト、外部のシステム開発会社と協働で、アップルウォッチによる高齢者見守りの実証実験を行った。異変があれば看護師が駆け付ける仕組みだ。
「この様な実証実験を行いたい企業は多いはずです。まめながこの地域で、商品開発を行う企業と参加者をつなぐ『ラストワンマイル』を担います」(更科代表理事)

一般社団法人まめな
更科安春代表理事
現在検証を進めている商材に、移動式の水回りユニットがある。これは、トイレ、風呂ユニットを台車に乗せ移動式とするもの。普段は建物と一体化しているが、必要な時に容易に分離、場所を変えることが可能だ。身体状況に合わせて、住宅の配置を変えられる。
法人では、こうして生まれた技術や企業から利益の一部の還元を求め、それをさらに地域へと再投資する。
更科代表理事は、「ナショナルトラストの考え方のように、地域の住民や企業がお金や労力を持ち寄り、直接地域の高齢者などを支える仕組みができれば理想です」と語った。