特養の副施設長として、身体拘束のない施設づくりを行ってきた鳥海房枝氏。厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」の作成にも携わった。未だ残る課題、その解決の糸口について語る。

NPO法人メイアイヘルプユー
鳥海房枝理事・事務局長
「身体拘束ゼロへの手引き」のなかでは、禁止対象となる具体的な行為を11項目挙げています(下記図参照)。
これらはあくまでも例であり、当てはまっていなければ良い、というものではありません。監査では11項目を中心にチェックが行われますが、項目をすり抜けるような身体拘束を今までに見聞きしてきました。

身体拘束禁止の対象となる具体的な行為・項目
例えば、ベッドの片側は壁なので柵で全て囲っているわけではないとする、車椅子のタイヤの空気を抜いて動けないようにする、など様々です。
一方で、車椅子テーブルは禁止対象の項目にありますが、拘縮のある人が体勢を起こすためにテーブルを使用する場合、身体拘束にはなりません。アセスメントをきちんと行い、「誰のため、何のために」行うのかが重要となります。
なぜ身体拘束はなくならないのでしょうか。
その1つに、ご家族からの「怪我させないで」という依頼によるジレンマがあると思います。施設はご家族に、身体拘束をするリスク、しないリスクを説明し、その上で、なぜこの方法をとるのかをしっかり説明することが必要です。入居者の「その人らしさ」を考え、ご家族と〝パートナー関係〟を構築することが鍵となります。
身体拘束ゼロに取り組むにあたり、「ゼロ」自体を目標にせず、なぜそのやり方をするのか、環境やケアを考えるきっかけにしてほしいです。ベッドから落ちるのはなぜか、より安全な環境をつくるにはどうしたら良いか、1つひとつのケアの方向性を検討してみてください。
主人公は、職員でも家族でも、監査人でもなく、入居者なのですから。