進化し回帰する医のかたち

 

 

 

 

国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で「光免疫療法」をはじめとする最新のがん治療に取り組む土井俊彦先生。見据える先にあるのは、単に革新的な治療の開発や提供にとどまらない、病院が病院の枠を超え〝流動的〞に機能する未来の医療だ。

進化するテクノロジーによって実現可能になるかもしれないその姿が、なぜか限りなく本来の「医の道」に近いように思えるのは、気のせいだろうか。

 

国立がん研究センター東病院副院長
先端医療開発センター副センター長
先端医療科 科長
土井俊彦先生

 

 

――前編で光免疫療法についてお話しいただきましたが、ほかにも注目しているがん治療法があるとか?

1つは「武装化抗体」を使った治療法です。抗体と抗がん剤を結合させた「抗体薬物複合体(ADC)」や、抗体と放射性同位体を結合させた「放射免疫療法(RIT)」など、抗体をいろいろなもので〝武装化〞してがん細胞だけを殺す治療法が、ここ数年でいくつも出始めています。先にご紹介した光免疫療法も、抗体に光を増感する物質を合わせたという点で、コンセプトは似ています。

 

以前は、血液の中を流れ、がん細胞の表面のタンパク質(抗原)だけに特異的にひっつく抗体医薬品だけで直接がん細胞を殺そうとしたんですが、効かなかったんですね。抗体だけでは死ななかった。

そこで、彼らを〝殺し屋〞である抗がん剤や放射性物質、光感受性物質を腫瘍まで運ぶ〝運び屋〞として使う新しい形が出てきたんです。

 

 

武装化抗体は、一昔前に言われた「ミサイル療法」と似たようなものと考えればいいと思います。ミサイルだけががん細胞に届いたとしても爆発しなきゃ意味がない。それを爆発させるのが、ミサイルの中に入った抗がん剤。

 

もちろん小ちゃな花火ぐらいの爆発じゃがん細胞は死なないし、逆に今まで使ったことがないような強い毒性物質を身体全体に入れちゃったら身体が死んじゃうんだけど、薄い濃度の〝火薬〞を腫瘍だけにたくさん届ければ、腫瘍だけを殺すことができるという話です。

 

 

がんセンターをなくしたい

 

――新たな抗体療法に期待大ですね。がん治療も含め、先生が心に描く未来の理想の医療とはどんなものでしょう。

がんセンターをなくすことです。がんがなくなれば、がんセンターはいらなくなるでしょ? 院長から「首!」って言われるかもしれないけど(笑)。病気のことを考えないでよい状態が理想です。

 

国立がん研究センター東病院(提供:国立がん研究センター)

 

 

――でもそうしたら先生、職がなくなるじゃないですか!?

仕方ないでしょうそれは(笑)。だってもともと外科医なんか、カミソリを持っていた散髪屋さんだったんですよ。薬だってお寺でお坊さんが煎じて村人に渡していたわけだから。お祈りをするシャーマンだって、そもそも医者と同じような存在でしょうね。

 

 

――じゃあ病院の仕事がなくなったら先生はお坊さんになられるんですね?
わかんないけど(笑)。将来、医者っていう職業自体が、病気の有無をどうやって見つけるか、ということだけに特化するようになるかもしれないし。がんができないようにする先制医療は、できればやっていきたいと思います。画像に出ない、検査に引っかからないがんを、その段階でコントロールするという。

 

現状、通院を終了した時点で医療行為も終了しちゃうんで、実際に病院に来なくても医療にアクセスできるよう、その先に何かつなげられるようなものができたらな、とも思います。

 

 

例えば、オギャーと生まれてから死ぬまでの自分の医療データ( ペイシェント・ジャーニー)が全部自分の携帯電話に保存されて管理できるようになっていて、それを、自分そっくりのアバターがサイバー空間の中のいろいろな病院に持って行けるようになったら面白いしラクだよね。

家にいながら事前に複数の病院をチェックして、自分に一番マッチした病院を選ぶことができる。要するに、病院と家の境界がなくなるんですよ。

先々VRでそうなるだろうと言われてますよね。

 

将来、VRでの診療が当たり前に!?

 

 

最終的には、病院がなくなるのが一番いい。手術がどうしても必要な時のために、一軒だけあればいい。

その代わり、トラックのコンテナに治療設備を備えた医療センターを作って、医者自身が患者の元に行きゃいいんじゃない?

 

普段は地方の消防署にいたり家で農作業したりしているけど、いざ火事になったらハッピ着て消防車に乗って行く、っていう、あんな感じでいいんじゃないのと思うけどね。病院がボーダレスになる。病院の機能が拡張すれば、そうなるんじゃないのかな。

予防医学に力を入れていけば、みんな健康や怪我には気をつけているわけだから、急性期の症状をコントロールすればいいんですよ。

 

で、それでもどうしても、という時のために、各県に大きな病院が1つあって、そこでは医者も看護師も十分に揃っていて最先端の医療が受けられる。そういう風にすれば、結局医療費も少なくて済むという気がしますけどね。

 

 

寺であり消防である病院

 

――寺であり、消防であり、病院である…そういう、何かクラシックだけど最先端のようなイメージだけでも凄くカッコいいですよね。では開業医の方々はみんな畑に戻って、みたいな(笑)?
それでいいんじゃないかなって言ったら殺されそうだからなぁ(笑)。でも、本当に理想的なのはそういうようなことだと思いますけどね。

地方ならできるかもしれない。もともと病院が少ない北海道とか。融通が効くというか流動的というか、ある意味〝スライム〞みたいな感じの仕組みがあるといい。

そうしたら、日本の医療の生産性も上がるんじゃないですかね。

 

聞き手・文 八木純子

 

 

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