社会福祉法人協同福祉会(奈良県大和郡山市)では、職員の技術向上に力を入れている。サービスポリシーの明確化や1ヶ月間の長期研修といった取り組みと、働きやすい環境の整備を実施。職員は働き続けながら、専門性を高められる環境となっている。
ケア指針を明確化 スキル向上で手当
同法人は、奈良県内で特別養護老人ホームあすなら苑(同・定員54名)を筆頭に、デイサービス、サービス付き高齢者向け住宅、などの介護保険事業を展開している。市民生活協同組合ならコープが母体。拠点数は21ヵ所。従業員数は正規、非正規を含めて1111名だ。
全てのサービスで徹底するのが、法人独自の「10の基本ケア」の実践。
①換気をする、②床に足をつけて椅子に座る、③トイレに座る、④あたたかい食事をする、⑤家庭浴に入る、⑥座って会話をする、⑦町内にお出かけをする、⑧夢中になれることをする、⑨ケア会議をする、⑩ターミナルケアをする、これらをサービスの根幹に据えている。
村城正理事長は、「この10の基本ケアによるQOL向上の成果が認められ、現在では全国の生協の福祉事業の現場において取り入れられています」と語る。

社会福祉法人協同福祉会
村城正理事長
法人では、新入職員に対し必ず、法人本部のあすなら苑での1ヶ月間の研修を実施し、その後現場に配属している。その研修では社会人のマナーといった基本的なことに加えて、座学、実践を通じて10の基本ケアを徹底して覚え込む。
研修終了後は試験を実施し、不合格者は補習に回る。現場に出てからは、フォローアップ研修や月1回の全体会議などを通じ、10の基本ケアを実践するように意識づけを行う。
村城理事長は「根幹を覚えてもらったら、あとは職員それぞれが『自ら考えながら』ケアを提供するようにしています」と語る。利用者は一人ひとり個性や好みがあり、適切なケア方法も異なる。それぞれに適したケアを提供しながらも「重要なポイント」を外さないことで、方向性を統一しながらも、個別性が高くかつ自立支援につながるケアを提供できる。
また、「マイスター制度」を導入し、職員のケアのレベルを下位からC級、B級、A級、マイスターに分類。C級は3000円/月、B級は5000円/月、A級は7000円/月、マイスターは10000円/月の手当がつくため、技術向上を目指すモチベーションになる。手当の原資に、処遇改善加算などが活用されている。

研修では「10の基本ケア」を徹底して覚え込む
「年1回10連休」推奨 3年以内離職減少
職員の技能向上には時間がかかる。長く働き続けてもらうことは必須だ。
働きやすい環境を整備するため、同法人では有給の取得を推進している。年1回、有給休暇を含む10連休を取得できる「ハッピーホリデー制度」を設置した。「現場の職員が遠慮してしまうことがないよう、まずは上司から積極的に有給を取得していくようにと伝えています」(村城理事長)。
現在、法人の有給取得日数の平均は9日以上だ。公益財団法人介護労働安定センターの「令和2年度『介護労働実態調査』」によると、介護職員の有給取得日数の平均は7.5日。そして、労働条件に関する悩みとして約3割が「有給休暇が取りにくい」と回答している。ハッピーホリデー制度が、介護職の定着を進める仕掛けとなっている。
教育体制の充実や、有給制度などの取り組みなどにより、過去5年間の新卒入社職員の3年以内離職率は12.9%となった(参考:厚生労働省の調査では、2020年度の医療、福祉分野における新規学卒就職者の3年以内離職率は48.2%)。採用も進み、今年4月には33名の新卒者が入職する予定だ。