第6波に襲われた大阪市では、介護施設でもコロナが猛威を振るった。市内の100人以上の高齢者が入所する介護老人保健施設で、1月下旬に男性介護士の陽性が確認された。その後2月18日までに入所者42人と職員24人へと感染が拡大した。
感染拡大が始まった当初、フロアの一部をレッドゾーンとして隔離し、介護で出入りする職員は医療用ガウン着用などで対応したが、感染は収まらず、次々と入所者や他の職員に感染が広がった。このうち医療機関に入院できたのは4人のみで、その他の利用者は施設内で療養を継続した。このためレッドゾーンの担当の職員はなんと2週間も病院に寝泊まりしたという。
2月15日の時点で、介護施設で2名以上の感染者が出ているクラスターの発生状況を自治体の報告からみると、高齢者福祉施設が1017件と断トツに多い。次いで飲食店の947件、企業の941件、医療機関の874件、学校・教育施設624件の順だ。
介護施設でのクラスターの発生は、感染対策のコスト増、新規入所者の利用停止による減収などにより、施設経営は非常に厳しくなる。このため厚労省もこうした介護施設を支援するため、感染発生時の医療従事者や感染管理専門家などの派遣による感染防止支援策や、感染発生時の応援職員派遣によるサービス継続支援、資金的支援を行ってきてはいる。
しかし現状、介護施設ではコロナ軽症者の患者を継続入所する場合や、介護施設内でコロナ治療のための簡易陰圧室の設置や、感染者に対する治療薬、中和抗体投与についての介護報酬評価はない。また医療機関からの介護施設への医療従事者の支援についても十分でない。
たとえば近隣の医療機関から介護施設へ医師や看護師が定期的に訪問し、ゾーニング体制のチェックや、PPE(感染個人防護具)の装着の訓練などの研修や、感染サーベイランス支援、感染者への健康管理支援や、介護施設からの感染相談などを行う体制にはなっていない。
2022年4月の診療報酬改定では、医療機関の感染防止対策加算がさらに強化拡充された。
これまでの基幹病院の感染防止対策加算1を充実して大幅に増点し、さらに加算2に加えて小規模病院もカバーする3を追加、さらに診療所も対象とした新加算を整備した。基幹病院から診療所まで地域ぐるみの連携の中で行う感染症防止対策に拡大した。
次回の24年診療報酬・介護報酬同時改定のときには、この流れを介護施設にまで拡張してほしいものだ。同時に感染症に関して、日常的に医療施設と介護施設の緊密な地域連携が行える体制にしたい。
武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)