今年に入り、介護施設から最も多い相談は、「介護職員の賃金改定」です。月平均9000円の賃金改善と報道されていることから、職員から確認されるケースが増えています。
今回の補助金、交付金は、既存の処遇改善加算と類似の仕組みで支給額が決まりますが、月額9000円の賃金改善ができるくらいの原資の確保とはならない施設が多いとの印象を受けます。10月にはこの点について臨時の加算の改定もあるようですので、制度に関する情報収集を意識していくことは大切です。
「育児・介護休業法」改正の理解を
その他、介護福祉業界のみならず全産業で4月以降の制度改定で大きなものに「育児介護休業法の改正」があります。今回の改正は、2022年4月と10月の2段階で行われます。
4月は、①「有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和」と②「育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」が改正点となります。
①は、有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件が廃止されます。ただし、労使協定を締結した場合には、無期雇用労働者と同様に、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することを可能とすることもできます。
また②に関しては、⑴育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置、⑵妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置を講ずることを事業主に義務付けるとなります。
介護福祉施設は、女性が多い職場でもありますから、この改正によって更に育児介護休業を利用しやすくなります。また男性の育休参加率も年々増えていますし、職場の相互理解がますます求められます。その理解を促進するための措置も求められ、例えば育児休業等に関する研修の実施や相談窓口設置等の措置を実施することが義務付けられます。
研修に関しては、全職員が望ましいですが、最低でも管理者クラスには研修が必要としています。
管理者はシフト作成など労務管理を担当している方も多いと思いますが、育休取得によるシフト体制をどのようにするのか、育休明けの勤務体制はどうするのかなど、制度の仕組みをしっかりと理解しておくことは労務管理上も重要になってきます。
介護福祉業界は、介護独自の改正への対応はもとより、全業種に適用される法改正への対応も当然に行なわなければなりません。
常に情報収集と学びを止めないことやはり重要になってきます。

志賀弘幸
志賀弘幸氏
社会保険労務士法人THINK ACT代表 一般社団法人福祉経営綜合研究所理事
関西大学卒業後、メーカー、大学、コンサルティング会社勤務を経て2010年にシンクアクトを設立。社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かし、福祉介護業界に特化した人材育成・キャリアパス制度、労務管理アドバイスなどを全国の顧問先で実践。著書に『ビジネスとしての介護施設――こうすれば職員が定着する』(時事通信社)。