2月21日の日本経済新聞は1面トップで「日経・日経センター緊急提言」「保険医療 政府に指揮権を」と謳い、「医療機関に対して政府・自治体がガバナンス(統治)を」と訴えた。

 

コロナ禍で「医療体制の脆弱性が浮き彫り」になったことへの対応策である。「指揮権」という異様な表現は怒りの強さの表れか。現状を「コロナ治療に積極的に取り組む医療機関とコロナ患者を忌避する医療機関の二極化」と分析する。強制的なコントロールが嫌なら「保険医を返上すべき」と踏み込む。

 

コロナ患者を忌避する医師について触れたメディアはほとんどない。その数が二極化の一方を形成するほどと真正面から指弾したのは珍しい。自由開業制と診療科の自由選択を「特権的」とも記す。いずれも拍手だ。

 

ただ、医療体制を徹底糾弾するが、あるべき姿が描かれていないのは残念だ。同紙は昨年5月5日の社説で同様の指摘の上、「家庭医を増やせ」との見出しで、英国の家庭医制度の導入を提言した。今回、感染症法の2類から5類への転換を迫っており、家庭医の必要性は文脈上欠かせないはずである。自由開業と裏腹のフリーアクセスへの論及もなかった。

 

 

日経新聞は3月7日の紙面でも日本医師会を槍玉にあげた。「日本医師会、現場動かす権限なく」として、発熱外来の医療機関名の公表を巡る政府との攻防戦を挙げた。医師法で応召義務があるにもかかわらず、公表を拒む会員医師への強制力がないことをとりあげた。この調子で特権集団へのメスを期待したい。

 

 

介護保険制度を導入した厚労省の立て役者の一人、香取照幸上智大教授の発信が目を引く。「健康寿命」を扱った17日の読売新聞で、「あいまいで科学的でない主観的な数値であり、国の政策目標に据えるのは妥当ではない」と指摘。

 

 

日経新聞の3回連載「社会保障 次のビジョン」で3月2日、3番目に登場し、「少子化は静かなる有事」「育児の社会化を」と家族形成支援策を訴える。

目下の出生数が2月25日に発表された。「過去最少」(朝日新聞)、「出生数84万人 最小更新」(毎日新聞)と各紙が報じたが、かつて「80万人台か」と危機感をあおっていたのに、「意外に多い」と疑問を抱く読者がいるはずだ。

 

実は、今回の発表は外国人や海外在住者を含む速報値で、それらを除いた確定値は9月に発表される。産経新聞だけが「速報値と確定値では3万人程度の差が生じる」と記し疑問を解消してくれた。

 

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

 

 

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