地域包括ケアの先進モデルとして厚労省が推奨してきた埼玉県和光市。要介護要支援者の認定率を下げ、介護保険料の上昇を抑えたことで評価された。利用者と費用が少ないと介護保険制度の持続性が高まるからだ。「和光方式」と呼ばれ、追随した大分県と並んで厚労省が「優等生」のお墨付きを与えた。

 

ところが、陣頭指揮にあたっていた東内京一元保健福祉部長が2019年6月に逮捕され、業界に大きな衝撃を与えた。生活保護受給者や認知症高齢者などから7件総額7978万円を詐欺、窃盗、業務上横領した疑い。昨年9月にさいたま地方裁判所から懲役7年の判決を言い渡され、控訴中だ。

逮捕される前年までの5年半、部長在職中に犯罪が起きた。和光市は「施策と犯罪は別。在宅介護の限界を高める施策は今も変わらない」としているが、東内氏が去った後の地域包括ケアに異変が起きている。

 

要支援要介護者の認定率が19年に10.3%、20年に10.9%と上昇した。12年以来7年間続けて9%台だった。同時期の全国平均は18%前後、埼玉県平均でも14%前後。大差である。しかも長期間続いた。それがこの3年間で2.1ポイントも上乗せした。埼玉県では1ポイント、全国では0.5ポイントしか上昇していない。

 

 

認定率を上げた要因として「卒業」率が関わる。卒業とは、介護保険利用者が介護サービスなどを利用するうちに自立となり、認定を受けなくなること。独自の命名だ。利用者がデイサービスで「卒業証書」を受け取る場面が14年5月にNHKで放映された。

 

「要支援認定者の40%以上が毎年介護保険を『卒業』していく」と東内氏は豪語していた。確かに、2017年までは毎年40%台に収まっていた。それが、19年には110人の要支援者のうち改善したのは16人。14.5%に急落した。

 

 

保険料も異変が起きている。昨年4月からの第8期に5455円となった。前期より857円、18.6%もの大幅値上げだ。第6期(2015年~2017年)には埼玉県の平均より607円も安かったが26円差に縮まった。

 

高額値上げ分の3分の1、378円は「市の一般財源から出していた地域包括支援センターの費用を介護保険に移したため」と同市は説明している。驚くべきことだ。厚労省も「地域包括支援センターの費用を自治体が出すという話は聞いたことがない」と担当者は首を傾げる。同センターで働く保健師やケアマネジャーなどの配置や職務などは国が決めており当然費用は介護保険から出る。

 

市の財源で賄えば、その分介護保険料は抑えられる。「低い保険料」のからくりが自主財源にあった。財政が豊かだったからできたこと。

 

 

同市は人口約8万。高齢化率18%という小さな若い都市だ。7年前から地方交付税交付金の不交付団体を続けていた。この間の全国の不交付団体は多い年でもわずか86団体。和光市は屈指の裕福自治体といえる。それが、この12月に総務省は和光市を交付団体とした。税収減を予測したうえでの転換策だった。

 

豊かな財政によって、和光市は独自の高齢者支援に手を広げてきた。介護保険制度の「横出し」と言われる配食やおむつ購入費の助成など自治体の独自事業の25%は市が出してきた。多くの市町村は全額介護保険からだ。

 

 

東内氏にはパワーハラスメントも指摘されており、制度運営にその影響があったのか検証が必要だろう。厚労省が推奨する「保険者機能の強化」が高まると、かつての措置制度に逆行しかねない。

 

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう