1月28日、埼玉県ふじみ野市の民家で、訪問診療医が散弾銃で撃ち殺されるという痛ましい事件が起きた。

 

前日に死亡した高齢女性の弔問に訪れた訪問診療の医師と理学療法士を、女性の息子が散弾銃で撃ち、医師が死亡し、理学療法士も重症を負ったという事件だ。

医師は死亡した女性の在宅担当医だった。息子からすでに死亡している母親の心肺蘇生を要求され拒否した結果の出来事だという。事件が起きた日の午後、私も訪問診療の担当日だったので、身につまされた。

 

 

暴力・暴言は組織挙げて対応を

 

医療業界では、こうした患者の暴言・暴力は日常茶飯事だ。

 

2013年2月に、医療従事者向けサイトを運営するケアネットが会員医師1000人を対象に実施したインターネット調査では、暴言・暴力に遭遇したことがあると答えた割合が67%もあった。その頻度は半年に一度と年に一度を合わせると半数以上、2~3ヵ月に一度が20%、さらに月に一度、半月に一度という回答もあった。

 

18年の労働組合同盟のUAゼンセンの調査によると、職種別にみると医療介護業界では、威嚇、脅迫を受けた件数がおよそ4000件と突出して多い。次がフードサービス1600件、人材サービス1200件の順だ。

コンビニの店員の土下座謝罪などがテレビに放映されたが、この医療介護業界ではあまりにその数が多すぎるのでニュースにもならない。患者は弱い立場、また認知症や精神疾患による暴言・暴力もあるので、マスコミも取り上げにくいのだろう。

 

実は、こうしたモンスターペイシェントや家族に遭った経験は私にもある。長野県内の病院にいた頃、医療安全の一環で医療クレームの担当をしていた。

一度、超音波検査の検査技師に対する若い女性からのクレーム対応で、患者さんのお宅を検査技師長と訪ねたことがある。ちょうどお花見の季節で、家でお酒を飲んでいた父親が玄関先で「娘に何をしたんだ~!」と激高して、ゴルフクラブを振り回されて、ほうほうのていで逃げ帰ったことがある。

 

こうした患者・利用者の暴言・暴力に対する対応はどうしたらよいのだろう?

 

まずこの業界は「モンスター」が最も多い業界であることを自覚して、組織を挙げての対応に切り替えることだ。現場任せにせず対応担当者を決める。現場からこまめに報告をあげる。早期から第三者(医師会、弁護士会、警察など)介入を行うなど、リスクマネジメント体制を整備することが必要だ。

またケースによって、医師は正当な理由がなければ診療を拒否してはならないという「応召義務」の要件見直しも必要ではないのか?

 

亡くなられた、在宅医療に熱心に取り組んでいた鈴木純一医師のご冥福を祈るばかりだ。

 

 

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)

 

 

 

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