介護施設の人員配置基準を現行の「3対1」から「4対1」に変える案が動き出した。近く実証事業が始まるが、スクープしたのは昨年12月21日の日本経済新聞。2月2日の読売新聞が追いかけ、5日後に開かれた規制改革推進会議作業部会を受けて各メディアが報じた。
朝日新聞はやっと重要性に気付いたのか、3月19日に「現場は質低下を懸念」と指摘した。特養でなく介護付き有料老人ホームが対象と強調。
「介護助手 採用容易に、厚労省検討」と施設配置策を4月2日の日経新聞が1面で伝えた。配置基準で「0.2人分」とする介護助手を導入する案だ。
こうした規制緩和は人手不足への対応策でもあるが、事業者にとっては職員採用にかかる紹介料が目下の悩みのタネ。3月21日の読売新聞は「介護人材 紹介料が高騰」「事業者の経営の重荷に」と斬りこんだ。
厚労省の認定事業者がわずか35社と少ない。「悪質業者の公表を」と訴える現場の声をすくいあげ、良い記事になった。
3月19日の朝日新聞は「年老いてもペットとともに」と、横須賀市の特養での「同居ペット」を紹介した。9匹ずつの犬と猫が共用スペースを自由に出入りする。
「美味しい食事と同じ考え方です」と導入した施設長の思いを伝える。普通の暮らしを実現させた好例だ。だが、同様の特養はほとんどない。なぜか。もうひと追い欲しかった。
コロナ禍で施設に新たな医慮対応が求められてきた。「全高齢者施設で往診整備を要請、厚労省」(6日の読売新聞)、「コロナ高齢者『原則入院→施設内も可』」「治療介護 悩む現場」(8日の東京新聞)など。「入院でかえって体力が衰え、生活の質(QOL)が低下する場合がある」(9日の日経新聞社説)からだ。
「軽症なら住み慣れた場所で療養した方が本人にとってもよい」「コロナは最早、危機対応というより、通常の病気への対応に近付きつつある」(6日の朝日新聞)という見方が広がってきた。その通りだろう。
その正当性を裏付けたのは3月15日の読売新聞の「死因3割 コロナ以外」。「感染者が亡くなれば、直接の死因に拘らずに『コロナ死者』とする」と厚労省は通知しているが、自治体への独自取材で誤嚥性肺炎や持病、老衰による死が多いことが分かった。
コロナを異常に怖がる風潮にくぎを刺すいい記事だ。厚労省の発表に待ったをかけ、ジャーナリズムの本領が発揮されたと言えるだろう。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。