4月入社の新人に対する指導が始まっている頃だと思います。
先日、ある施設長から「新人が辞めたいと言っている」と相談がありました。「こんなに早く?」と思った方もいるかもしれませんが、今の新人は〝見切り〞が早い傾向にあります。求職者にとって有利な〝売り手市場〞ですから、辞めてしまってもすぐに職場は見つかります。
詳しく聞くと彼女は、入社初日は他の新人とともに座学研修。2日目には現場に配属されたそうですが、先輩がテキパキと働く姿に圧倒され「自分には無理だ」と感じたようです。3日目にはすでに「辞めたい」と…。
彼女を慰留できるかどうかはさておいて、もしあなたが、新人指導で〝行き詰り〞を感じているのなら、以下の5点を確認して修正しましょう。
①居場所づくり
どんな新人でも、最初は「先輩とうまくやっていけるか」と緊張しています。「ここでならやっていける」と、早い段階で感じられるように工夫しましょう。
ある特養では新人に対して、同じユニットで働く先輩、上司全員から一言添えて手紙を渡す儀式を、4月下旬に実施しています。この手紙で新人は、「自分は受け入れられた」と感じて安心するそうです。
②短期の目標設定
最初から目標が遠いと、あきらめてしまう新人も。前述の彼女がそうです。「あそこまではたどり着けない」と感じてしまったのです。
これを回避するのが〝スモールステップ〞です。指導内容を細かく分け、短期で達成できる手の届きやすい目標を設定し、一つひとつクリアさせるのです。リハビリの領域でも、ADL向上のために動作分析し、できないことを特定して工程を分けて訓練していくと思うのですが、同じ原理です。
③確実な技術指導
新人教育で最もいけないのが「職人的指導」であることは、この連載でも何度かお伝えしています。〝背中で教える〞方法は、新人が先輩を手本として自ら学ぶ姿勢なら良いのですが、そうでなければ機能しません。
設定した目標を確実にクリアできるように、その項目だけでも手とり足とり、できるまで指導するようにしましょう。
④短時間・高頻度の振り返り
声掛け、フィードバックは〝量〞が大事です。短時間でも良いので、高頻度に行いましょう。新人は「気にかけてもらっている」と感じますし、質問しやすい環境もつくれます。
また、定期的にしっかりと面談を実施することも大事です。私はクライアントには、1週間、2週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、6ヵ月の合計5回、トレーナー、リーダークラスが面談するようアドバイスしています。また、その内の何回かは、施設長が入ることもおすすめします。
面談の手順は、以下を参考にしてください。
⑴アイスブレイク(仕事以外のことを話して緊張を解く)
⑵マインドセット(面談の目的、ゴールを伝える)
⑶指導の振り返り
⑷先褒め(できないことを言う前に、できていることを褒める)
⑸課題の抽出
⑹ 不安・悩みの解消(受容・傾聴を心がける)
⑺指導計画の見直し
⑻応援メッセージ
⑤早めの成功体験
自分の子どもの学校生活を見ると、今の学校での教育では、挫折を感じる場面が少ないように思います。しかし、仕事ではそうはいきません。学校と違って比べられる場面は多々あります。
できないことは、徹底して指導を受けますし、できないままでいると〝低レベル〞というレッテルを貼られることも。ですから、就職して初めて挫折を味わったという人も多いかもしれません。きっと大きなストレスを感じると思います。トライする前から挫折し、前に進むのを諦めてしまうのです。
仕事における挫折を回避するためには〝小さな成功体験の積み重ね〞が大事です。
スモールステップで、できたら褒める。面談でも「④先褒め」し、承認、称賛して成功体験を重ね、「この仕事は自分に合っている」と感じられるように促すことが大切です。
さて、(①〜⑤)のステップで、足りないことはありませんでしたか?
今からでも遅くありません。修正して、新人を一人前に育成しましょう。
糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。