転倒予防の課題を議論し、実践に繋げる「日本転倒予防学会 第9回学術集会」が10月15日・16日にパシフィコ横浜で行われる。

 

大会長である国家公務員共済組合連合会東京共済病院脳神経外科部長の鮫島直之医師に、介護施設における転倒予防の対策ポイントについて聞いた。

 

国家公務員共済組合連合会
東京共済病院脳神経外科部長
鮫島直之医師

 

 

 

10月横浜で学術集会 転倒予防の知恵結集

 

 

―― 高齢者の転倒が要介護の原因として社会問題となっている。
鮫島 今、「転倒予防」が社会から求められ注目されています。高齢者の増加に伴い、転倒事故も増加しており、高齢者の救急搬送では、理由の7割が「転倒」と最も多くなっています(資料1)。

 

 

 

 

また、「不慮の事故」による死亡数を、種別でみると「交通事故」は減少傾向にある一方、「転倒・転落」は増加していて、今では交通事故で亡くなる方よりも転倒で亡くなる方が多くなっています(資料2)。

 

 

 

転倒が起こる領域を「地域(自宅を含む)」・「病院」・「介護施設」にわけると、地域では、生活場面での転倒が不慮の事故死や要介護になってしまう原因となります。病院・介護施設では、治療を妨げるばかりか、入院日数の延長やその後の生活にも重大な影響を与えてしまいます。医療安全面での対策も求められており、転倒予防は、喫緊の学術的・社会的課題であると考えます。

 

この3領域のうち、特に介護施設については、病院に比べ、標準的な指針がありませんでした。

 

 

 

―― 介護施設において、なぜ転倒予防が難しいのか。
鮫島 転倒要因には、筋力低下や疾患・薬物などによる「内的要因」、段差などの環境による「外的要因」、「トイレに行きたい」などの本人の意思からくる「行動要因」があります。

 

病院の場合、専門医がいるため内的要因にアプローチできますが、専門医のいない介護施設ではそれができません。限られたスタッフで多くの介護施設利用者に対して、すべての要因への対策をたて日々実践することは難しいと考えます。

 

介護施設における標準的な対策の確立と普及が急務です。

 

 

 

―― 介護施設での対策ポイントは。
鮫島 転倒予防は施設全体で取り組むことが重要です。最近では転倒予防チームを結成している施設が増えています。様々な観点から対策を検討できるよう、多職種のチームであることがポイントです。チームが主体となって勉強会などを行い、情報を共有します。そうすることで、「転倒予防に取り組んでいこう」と施設の一人ひとりに意識が浸透していくことが大切だと思います。

 

転倒予防のカルチャーが施設全体に浸透すると、スタッフ一人ひとりがものを置く位置への配慮や整理整頓の心がけを自然と行うようになり、転倒リスクの軽減に繋がっていきます。今後は日常の事例を共有するなど他事業所とも連携をとり、横の繋がりを広げていきたいと考えています。他の施設はどのような対策をとっているかという問い合わせも多く、皆さんが知りたいことだと思います。

 

 

 

―― 重度化防止・自立支援と転倒予防をどのように両立させるか。
鮫島 施設内で活動を増やすことは常に転倒リスクがつきものです。介護現場はこの狭間に置かれており、ジレンマを抱えている現場スタッフは少なくないと思います。藤田医科大学の大高洋平教授は「豊かな活動のための転倒予防」を提唱しています。転倒と活動は背中合わせの関係ですが、両者のバランスをとることが必要です。

 

日本老年医学会と全国老人保健施設協会が昨年発表した「介護施設内での転倒に関するステートメント」では様々な指針が示されています。現場の皆様にお伝えしたいのは「転倒は予防策を実施していても、一定の確立で起こるものであり、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない」という提言です。

 

どうしても避けられない転倒事故はありますが、重要なことは、予防策や転倒が発生した後の対策をしっかりと講じているかどうかにあります。家族の理解も大切です。転倒予防を過度に重視して患者をベッドに縛り付けておくことなく、利用者の豊かな生活を送るための転倒予防であってほしいと願います。

 

 

 

―― 具体的な対策は。
鮫島 転倒リスクを家族と共有しておくことが大切です。さらに転倒事故が起こってしまった場合に備え、フローチャートを作成しておくと良いと思います。フローチャートについては当会の副理事長である浜松医科大学臨床看護学講座の鈴木みずえ教授が開発しているので参考にしてください。

 

また、AIテクノロジーの活用もおすすめです。プライバシーに配慮された見守りシステムや電子カルテから転倒の可能性が高い人を分析したり、歩行測定を行うことで転倒リスクを数値化したりするサービスなどが開発されています。
学びの機会としては、当会は「転倒予防指導士」認定制度を実施しています。是非この講座も受講してもらいたいです。

 

 

 

―― 「転倒予防指導士」認定制度とは。
島 転倒予防の現状と対策、転倒外傷、転倒リスク評価など、病院・福祉施設および地域社会での転倒予防方法について学習する資格講座です。毎年2回資格取得のための講座を実施しています。受講者は看護師やPT・OTといった医療職が多いですが、運動指導士や建築士、技術士、高齢者当事者など多岐にわたります。転倒予防指導士講座で学んだ知識を施設に持ち帰り、そのスタッフが中心となって転倒予防を実践してもらっています。

 

 

 

―― 今集会のテーマは。
鮫島 2022年10月15日(土)・16日(日)の2日間、横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で「日本転倒予防学会 第9回学術集会」を開催します。今回のテーマは「転倒予防のみらいをかたちにする」です。日々様々な場所で転倒予防に活躍している人たちの知恵を結集し、広く深い議論を展開させ、未来への展望を「かたち」にしていけるような企画を準備しています。

 

特別企画「介護施設での転倒予防を考える」のシンポジウムを開催します。「介護施設内での転倒に関するステートメント」の内容を取り上げるほか、実際の介護現場からの声をお聞きする予定です。その他、特別講演では工藤公康氏(福岡ソフトバンクホークス前監督)をお招きして運動とバランスについて講演していただくほか、リハビリテーション、スポーツ医学、AIテクノロジーなどの分野でシンポジウムを行います。

 

今学術集会を通じて、先進的な取り組みを実施している介護施設の事例を発信し、介護施設における「道しるべ」を示したいと考えています。介護施設で転倒予防に取り組む皆様には是非とも会場にお越しいただき参加して欲しいと思います。

 

 

詳しい内容に関しては学術集会ホームページをご参照してください。

 

 

 

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