最近我がデイサービスを利用するようになったAさん。デイサービスの利用目的は清潔保持で、男性家族の介入ではトイレ介助も思うようにできず、入浴はいつ入ったか定かではないそうです。

 

ご家族はAさんの認知症を理解しようと日々努力をなさって今日まできました。認知症症状で気持ちの高ぶりなどがあった際に服用してください、と向精神薬をお預かりしています。きっとご自宅でも対応に悩まれているからこそ、スタッフの大変さを理解してのお薬の持参なのだろうと思います。でも可能な限りケアで対応していきたいと思っています。

 

 

そこで老年心理学教授トム・キットウッドが1980年代末の英国で提唱した「パーソンセンタードケア」を改めてひも解いてみました。

 

認知症者の行動や状態は、認知症の原因となる疾患のみに影響されているのではなく、その他の要因との相互作用であるという考えをキットウッドは以下のようにまとめています。

 

「脳の障害・性格傾向・生活歴・健康状態、感覚機能のアセスメントが必要であり、その人を取り囲む社会心理(周囲の人の認識、環境など)、例えば、朝から妙に落ち着かず歩き回るのは便秘や発熱などの体調不良が影響している可能性を考える」

 

 

主婦だった女性が家に帰りたがるのは、食事の準備が気になるという生活習慣の影響があるかもしれません。様々な行動を全て原因疾患のせいにしてしまうと、抑制するには薬しかないと考えがちですが、その他の要因を探っていくことで、ケアの力を発揮することが可能になると考えられます。

 

Aさんは旦那様の仕事を手伝うなどしていましたが基本は主婦でした。ですからタオルを畳んだり、シーツの交換をお願いすると私達よりも手際よく丁寧です。ですが集中力があまり続きません。集団の中では落ち着いて過ごすことが苦手な様子が見られ、マンツーマンの対応では比較的落ち着いた状態です。

 

Aさんの会話の中には必ず「ごめんなさいね、私なにも分からなくて。私だめなのよ何にもできないのよ」と涙ながらに訴えます。

 

 

Aさんにとって我がデイサービスが「居心地のいい場所」と思ってもらえるようにしっかり「パーソンセンタードケア」を活用していこうと思います。

 

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

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