「収入減で日医が抵抗」と日経
コロナ禍の中、発熱患者や専用ベッドへの転換に背を向け、ワクチン接種にも応じない医療機関が続出した。政権はしびれを切らし、かかりつけ医の制度化を検討し始めた。7日の日本経済新聞が「かかりつけ医 日医が抵抗」と制度化に反旗を翻す日本医師会の対応を批判的に報じた。
「誰がかかりつけ医なのかがあいまい」と日医の主張に反論しながら、英国並みの制度作りを後押しする論調だ。反対理由は「包括払いで収入減に」とも指摘。日本の医療の根底を揺るがす大テーマなのに、他メディアは知らんぷりだ。
4月28日の日経新聞は「ウィズコロナ 世界に遅れ」と、マスクや行動制限でも後れを取っている日本の現状を冷評。実質的な感染者数や死者が日本を大きく上回る欧米諸国では「コロナ前の日常生活に戻り」と伝え、「社会経済活動を抑えるな」と訴える。
遅れの理由は「日本医師会や全国知事会などが反発する」からと、ここでも医師に弱腰の日本の特異性を浮き彫りに。
新認知症薬アデュヘルムのその後も日経だけが報じた。5月5日の見出しは「エーザイ、認知症薬で減損」。米会社と共同開発した新薬が治験で有効性を証明できず、期待した収益を得られなくなったというものだ。大騒ぎした新薬だけに、続報を忘れないで欲しい。
入院でなく施設でコロナ患者の受診を促す厚労省の新施策に、「医療体制確保65%」(毎日新聞)、「高齢者施設65%往診可」(産経新聞)と4月29日に一斉に報じた。厚労省の発表そのものだが、朝日新聞と読売新聞は半日早い前日夕刊で書いた。ただ、朝日は「65%にとどまる」と批判的。
「確保した」と記す他紙とは異なる読者視点での評価だ。厚労省の見解をうのみにしない的確な判断だろう。
朝日は5月29日に「施設内療養 拭えぬ不安」と施設側の苦しい事情も報じた。それでも「入院先で適切なケアを受けられず体調が悪化するケースもある」との佐々木淳・訪問診療医の正論を載せ、読者に判断を委ねた。
医師と施設の関係で時代遅れなのが特養の配置医だ。4月25日の読売新聞は「入所者急変 往診料ゼロ」「ボランティア精神頼み」「搬送で救急医療に負担も」と有料老人ホームとは異なる特養独特の仕組みを批判する。
政府の規制改革推進会議でも取り上げられた。
かかりつけ医の訪問を認める政策転換が必要だが、残念ながら踏み込み不足。「普段から医療機関と施設が良い関係を」(尾身茂コロナ対策分科会長)と締めるにとどまった。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。