九州工業大学(北九州市)では、介護・医療分野のビッグデータの解析、それを活かしたケアを支援するテクノロジーを研究している。昨年からは、高齢者の気分を予測する「『ケア』天気予報」の開発を開始。加えて、大学内に新たに「ケアXDXセンター」を設立するなど、研究を加速させている。
状態“予報”開発 センターの新設も
同大学ではこれまで、スマートフォンのセンサーを利用することで介護士の行動を認識し、介護記録を半自動で作成する介護自動記録AIアプリ「FonLog」を開発している。
新たに開発を進める「ケア」天気予報は、日々の記録に基づき高齢者の身体状況や心理状況を「予報」するシステムだ。その人の状態が1日の間にどのように変化するかを、天気予報のように表す。
昨年12月に開発に協力可能な事業所を募集。デイサービスや有料老人ホームなど10事業所で基礎的なデータ収集を行った。FonLogを用いて、高齢者や職員の気分をアイコンで記録してもらうもので、約3ヵ月分のデータを取得した。
「詳細な分析はこれからですが、現時点では、気持ちにプラスに作用する要因、マイナスに作用する要因の傾向が見えてきました」(井上創造教授)
データ収集を続け、早ければ再来年のリリースを見込んでいる。

井上創造教授
成功体験を研究水平展開目指す
同大学ではテクノロジーの開発だけでなく、社会実装の方法についても研究を行っている。その一環で開設されたのが、ケアXDXセンターだ。
ここでは、ビッグデータ解析のAI構築と両輪で、テクノロジー活用の成功体験「XD」(Experience Design:成功体験の設計)を研究する。具体的には、FonLogを導入した介護施設や医療機関における導入成功事例を分析し、「ノウハウ化」を目指す。
現状、さまざまなテクノロジーが存在するが、普及、活用に向けた歩みのペースは緩やかだ。井上教授は、「活用が進まないため、理解も進まない。理解ができないものは導入しない、という悪循環に陥っている」と考えた。そこで、成功事例を作り、悪循環を打破することを目指し、ケアXDXセンターの立ち上げに至ったという。
「まずは、『何をしたら、どのくらいのレベルで、何を経験できるか』といった、テクノロジー活用のビフォーアフターを示せるようにしたいと思います」(井上教授)
今後4年間で、FonLog導入事業所数を100事業所にすること、研究成果である論文の被引用数1000件以上を目標としている。