高度経済成長期(1955〜72年頃)が終焉を迎える頃、わが国も女性の高学歴化と社会進出が進展。共働き世帯の増加、晩婚化の進行、生涯未婚率や離婚率の上昇など大きな社会的・経済的変化が続いた。

そんな中でも、男女平等、多様性を尊重する社会のあり方は徐々に浸透してきた。16年には女性活躍推進法が施行され、女性の活躍推進、雇用と待遇の改善、ワークライフバランスなどは喫緊の課題になっている。

 

このように、社会が大きく変化してきたにも関わらず、女性の健康におけるダイバーシティ、情報発信によるインフォデミックへの警鐘も含め、日常生活における女性の健康に対する支援は十分とはいえない。働き方や子育て支援、介護支援も含め、社会基盤が変化のスピードに追いついていない現実は否めない。

 

 

総務省の労働力調査によれば、45〜50歳代の労働力率は80%を超える。10年前と比べても明らかに増加しており、多くの女性が不調を抱えながら働いているといわれている。

 

さらに著しいのは、65歳になると労働力率が20%以下へと急降下していくことだ。現代において65歳の健康度からいえば、まだまだ十分現役のはずだ。社会の体制づくりを前提に、50歳前後から身体の変化を見据え、主体的に健康の維持、回復、向上に関連する行動パターンを習得できれば、下降線はもう少し緩やかになるのではないだろうか。

 

 

かつて日本がバブル景気に沸いていた頃、ハワイの高級ブランド店の上位顧客は日本人だった。滞在中に各店舗を訪れるたび、イキイキと接客をする高齢の女性スタッフたちに目を奪われた。いくつになっても小粋にオシャレをし、長年培った審美眼で顧客を見極め、品格を漂わせ商品を売り込む姿が、わたくしには眩しく映った。こうした欧米の高齢女性たちは当時、今われわれが抱えている女性特有の課題を一足早く経験していたのだろう。

 

米国では、71年にボストン女の健康の本集団著「Our Bodies,Ourselves(OBOS)」が出版され、女性自身が自分の身体のナゾを解く手助け書として評価を呼んだ。その後、古典書として世界でフェミニスト書籍のバイブルとして流通し、世界30以上の言語で翻訳され、日本では88年「からだ・私たち自身」のタイトルで、翻訳出版された。女性特有の病気、更年期、妊娠出産、不妊、避妊、性暴力、セクシャリティなど多岐にわたるテーマが、ありのままの経験談や感情を医学的知見とともに、惜しげなく盛り込まれている。

これまで長く絶版状態であったが、昨秋ウェブ上の図書館に収録され、復刊された。

 

 

わが国は、かつて幾度とチャンスを見送った更年期対策推進について、ようやく積極的に動き出している。

 

22年度から女性の更年期障害が日常生活に与える影響についての調査研究が実施された。自民党内では包括的に支援する制度整備を検討。NHKと専門機関の調査では、更年期症状によって仕事に何らかのマイナスの影響があった、いわば「更年期ロス」の人が専門家の推計で100万人を超えるとの結果が出た。

 

一般的に女性の身体は未だ謎が多いとされ、知識にも個人差がある。その社会で闘った先人たち、ウィメンズ・ヘルスに携わってきた人たちの積み重ねでここまで辿り着けたこと、そして今、世代を超えた共感が生まれはじめている。

 

 

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

 

 

 

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